東京高裁平成12年1月20日判決

→ 判決が引用する原判決を補充して読みやすくしたバージョンはコチラ

◇ 東京高裁平成12年1月20日判決 平成11年(ネ)第3589号損害賠償請求控訴事件
 (原審・東京地方裁判所平成8年(ワ)第25504号)
 (平成11年11月16日口頭弁論終結)

          判         決

   山梨県東山梨郡(略)
       控   訴   人     X
       右訴訟代理人弁護士     山   口       広
       同             杉   山   典   彦
       同             渡   辺       博
       同             朝   倉   淳   也
   東京都杉並区本天沼三丁目一番一号
       被  控  訴  人    宗 教 法 人 幸 福 の 科 学
       右代表者代表役員      大   川   隆   法
   東京都品川区平塚二丁目三番八号 宗教法人幸福の科学内
       被  控  訴  人    A
   栃木県宇都宮市(略)
       被  控  訴  人    B
       右三名訴訟代理人弁護士   小 田 木       毅
       同             佐   藤   悠   人
       同             松   井   妙   子
       同             野   間   自   子

          主         文

 一 本件控訴をいずれも棄却する。
 二 控訴費用は控訴人の負担とする。

          事 実 及 び 理 由

第一 控訴の趣旨
 一 原判決を取り消す。
 二 被控訴人らは、控訴人に対し、各自金二億六四〇〇万円及びこれに対する平
 成三年七月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
   次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第二 事案
  の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。
 一1 原判決三頁末行の「脅迫し」を「脅迫するなどして」に、四頁一行目の
   「強制して交付させたことが」を「させたことが社会的相当性を欠き」に改
   める。
  2 七頁八行目の「再開したが、その際、」を「再開し、後記のとおりブロッ
   ク長になった後の同年八月、」に改める。
  3 一四頁未行の 「甲二の1」を「甲二の1ないし3」に、一九頁一〇行目の
   「甲三ないし七の各1」を「甲三ないし七の各1、2」にそれぞれ改める。
  4 二一頁一行目の「杉浦」を「杉山」に改める。
 二 当審における控訴人の主張(原審主張の補充)
   献金勧誘行為の目的とその用いられた手段・方法及びその結果を客観的外形
  的に認められる事実に基づいて総合的に勘案し、献金を勧誘される側の財産権
  や人格権の尊重との関係で、社会的相当性を逸脱していると認められる場合に
  は、たとえその行為によって勧誘される側の自由な意思が抑圧されたといえな
  いような場合であっても、違法性が認められるべきである。
   本件においては、当時、養父Dという精神的支柱を失った控訴人は社会的
  に孤立した立場にあったこと、被控訴人Bが控訴人の管理下にあった財産を
  当てにしたこと、大川の説く「三宝帰依」の教義は組織の長の指示に常に忠実
  であれというもので控訴人ら信者はその実践をかねて指示されていたこと、平
  成二年末から翌三年七月にかけての被控訴人幸福の科学の強烈な組織拡大活動
  のもたらした控訴人への影響、大川から直接山梨の責任者に任命されたという
  被控訴人Bの山梨地区・支部での控訴人ら会員への支配力、被控訴人幸福の
  科学の組織拡大に伴う献金勧誘の実態、大川が説く地獄や霊界の恐怖を被控訴
  人Bがあおったこと、控訴人にとって地獄や霊界の恐怖が現実性のある強い
  ものであったこと、献金額が異常に高額であることなどに照らして、被控訴人
  Bの本件各献金勧誘行為は、社会的相当性を逸脱した違法性を有する。

第三 当裁判所の判断
 一 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。その
  理由は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決の「事実及び理由」の「第三
   当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。
  1 原判決三六頁三行目の「証拠の評価」を「事実認定」に改める。
  2 三七貢三行目の「前記認定の」から同九行目までを「右各献金の働きかけ
   並びにその承諾及び金員の交付は、いずれも控訴人自身に対して行われ、か
   つ、控訴人の判断で行われたものと認められるのであるから、仮に、出捐者
   が控訴人でないとしても、それだけで控訴人に対する不法行為として精神的
   損害を含めてされている本訴請求が直ちに否定されるものでもない。したが
   って、出捐者が控訴人であるかの判断はおいて、被控訴人らの控訴人に対す
   る献金勧誘行為が違法性を有し不法行為に当たるかについて判断することと
   する。」に改める。
  3 三八頁五行目の「一五五、一八二、一九一、」を削り、三九頁三行目の
   「関係者を巻き込んで」を「関係者にまで自発的かつ積極的に働きかけて」
   に、同一〇行目の「脅迫行為」から四〇頁一行目までを「脅迫行為により行
   われたものであると評価することはできないものといわざるを得ない。」に
   それぞれ改める。
  4 四〇頁二行目の末尾に「一一及び一二の各1、一七の4、5、一八及び二
   〇の各2、」を加え、同三行目の「一八二、一九一、」を削り、同五行目の
   「七九ないし八三」を「七〇ないし七五、七七ないし八三」に、同六行目の
   「八五の1にし3」を「八五の1ないし3」にそれぞれ改め、同七行目の
   「九〇の1、2、」の次に「九四、九五、」を加え、同行目の「一〇四ない
   し一一〇」を「一〇四」に、四二頁四、五行目の「偶々Dの」を「D及
   びEの」に、同行目の「自由に処分」を「管理・処分」に、同七行目の
   「三億円」を二億円」に、四四頁六行目の「作成し、東京地方裁判所に提
   出したこと、」を「東京地方裁判所に提出する目的で作成したこと、控訴人
   は、C神社名義で、被控訴人幸福の科学に対し、平成三年七月二億五〇〇
   〇万円、同年八月七〇〇〇万円、同年一一月二二五〇万円、同年一二月四〇
   〇〇万円、平成四年五月一億円、平成五年五月三億円、同年九月四〇〇万円
   の各貸金をした(他にも貸金があったが、後記最終返済前に返済済みであ
   る。)こと、」に、同九行目の「ところが」から四五貢八行目の「ないこ
   と、」までを「控訴人は、平成六年一二月末に、それまでに本件各献金以外
   にC神社名義で被控訴人幸福の科学に貸し付けていた前記合計七億七七五
   〇万円の返済期限未到来の金員全額の中途返済を求め、何らのトラブルなく
   右要求どおり平成七年一月二〇日に右全額の返済を受けたこと、控訴人は、
   同年二一月一一日に至り、被控訴人幸福の科学の事務局次長ら役職員から、
   他の宗教団体のスパイであると疑われて追及されたことなどから、同被控訴
   人を退職することとし、同日付けで退職願を提出して同被控訴人を退職した
   こと、しかし、控訴人は、その後も、大川及びその教えに対する信仰、信奉
   を持ち続けていることを表明していたところ、平成八年一一月一八日付け脱
   会通知書を発して、家族らとともに被控訴人幸福の科学を退会し、本訴請求
   をするに至ったが、それまでは、本件各献金を問題としたことは全くなく、
   被控訴人らに対し本件各献金が被控訴人らの脅迫等の違法行為によりされた
   ものであると主張してその返還を請求したことはなかったこと、」にそれぞ
   れ改める。
  5 四六頁一行目から同二行目の「強要された」までを「献金勧誘行為が被控
   訴人Bの脅迫行為により行われた」に改め、同四行目の「一五五、一八二、
   一九一、」を削り、同九、一〇行目の「神道とはいえ宗教に」を「神道に」
   に、四七頁一行目末尾の「等」から同四行目の「強要した」までを「、控訴
   人は、右各献金とは別に被控訴人幸福の科学に対し合計約七億八〇〇〇万円
   もの貸金をし、しかも、その全額の返済を受けていること等の事情を併せ考
   えると、被控訴人Bの献金勧誘等に当たっての右言辞により、控訴人がそ
   の主張のような「地獄や霊界の恐怖」等に困惑、畏怖し、その自由な意思を
   制約されて本件各献金行為をしたものと認めることは到底できず、右言辞を
   もって」に、同五行目の「一般には例を見ないほどの」を「極めて」にそれ
   ぞれ改める。
  6 四八頁一行目の次に改行して次のとおり加える。
  「 さらに、控訴人は、大川の教え(教義、言説)の影響を問題とするが、
   控訴人が大川に心酔し、その教えを信奉したのは、控訴人の全くの自由意
   思によるものであり、この点に被控訴人幸福の科学側の何らかの違法・不
   当な働きかけがあったとは認められないし、本件各献金勧誘には大川自身
   は全く関与していないのであるから、大川の教えの影響を本件各献金勧誘
   行為の違法性に結び付けることはできないといわざるを得ない。
    以上に認定、説示したところを総合考慮すると、本件各献金は、大川の
   教えを信奉していた控訴人の自由な意思に基づいて行われたものであり、
   被控訴人Bの脅迫等の献金勧誘行為の結果、控訴人の意思を制約された
   状態で行われたものとは認められず、また、被控訴人Bの献金勧誘行為
   をもって、社会的相当性を逸脱した違法性を有するものとは認められない。
   そして、他に、控訴人による本件各献金に当たって、被控訴人B及び同
   Aの共謀による違法行為がされたことを認めるに足りる証拠はない。」
  7 四九頁一行目の「交付については」の次に「他の金員の交付と異なり」を、
   同二行目の「いないこと」の次に「、右預金引出しが二回にわたって行われ、
   しかも、その合計金額が控訴人が交付したと主張する金額と一致せず、端数
   のある金額である(同預金の右引出後の残高は三〇五万九三八八円であ
   る。)こと」をそれぞれ加え、同五、六行目を 「したがって、本件金員四の
   交付の事実が認められないから、その前提として控訴人が主張する被控訴人
   Bの脅迫、違法勧誘行為の事実も認める余地はない。」に改める。
 二 よって、控訴人の請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は
  いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

    東京高等裁判所第七民事部

        裁判長裁判官   奥   山   興   脱

           裁判官   杉   山   正   己

           裁判官   沼   田       寛