東京地裁平成12年7月18日判決

◇ 東京地裁平成12年7月18日判決 平成9年(ワ)第876号損害賠償請求事件

 原告 宗教法人幸福の科学
 右代表者代表役員 大川隆法
 右訴訟代理人弁護士 佐藤悠人
 松井妙子
 野間自子
 被告 株式会社講談社
 右代表者代表取締役 野間佐和子
 被告 元木昌彦
 右両名訴訟代理人弁護士 河上和雄
 山崎恵
 成田茂
 的場徹

   主  文

 一 被告らは、原告に対し、連帯して金一〇〇万円及びこれに対する平成九年二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 二 原告のその余の請求を棄却する。
 三 訴訟費用は、これを一〇〇分し、その一を被告らの連帯負担とし、その余は原告の負担とする。

   事  実

第一 当事者の求める裁判
 一 請求の趣旨
  1 被告らは、原告に対し、連帯して金一億円及びこれに対する平成九年二月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
  2 被告らは、原告に対し、別紙(一)記載の謝罪広告を、別紙(二)記載の謝罪広告掲載要領の方法で、週刊現代誌上に掲載せよ。
  3 被告らは、原告に対し、別紙(三)記載の謝罪広告を、別紙(四)記載の謝罪広告掲載要領の方法で、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞及び日本経済新聞の各新聞全国版朝刊社会面に、各一回掲載せよ。
  4 訴訟費用は被告らの負担とする。
  5 仮執行の宣言
 二 請求の趣旨に対する答弁
  1 原告の請求をいずれも棄却する。
  2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
 一 請求原因
  1 当事者
   (一) 原告は、平成三年三月に恒久ユートピアの建設(全人類の魂の救済)を目的として宗教法人法に基づき設立登記を経て設立された宗教法人である。
   (二) 被告株式会社講談社(以下「被告会社」という。)は、雑誌や書籍の出版等を目的とする株式会社であり、我が国で最大手の出版社である。
 被告元木昌彦は、被告会社の被用者にして、被告会社が発行する雑誌「週刊現代」誌(以下「週刊現代」という。)の編集人であり、“「第二の上九一色村になる!!」幸福の科学「栃木進出」に宇都宮市民が猛反発!”と題するグラビア記事(以下「本件記事」という。)を掲載した「週刊現代」平成八年二月一〇日号(以下「本件雑誌」という。)の発行人である。
  2 記事の内容
 被告会社は、平成八年一月二九日発行の本件雑誌において、後記(一)の見出しの下に、(二)ないし(六)の記述部分を含む本件記事を掲載した。
   (一) “「第二の上九一色村になる!!」幸福の科学「栃木進出」に宇都宮市民が猛反発!”(以下「本件第一記事部分」という。)
   (二) “オウム事件のとばっちり、という一言では決して片付けられない騒動である。新興宗教『幸福の科学』の栃木県宇都宮市への進出に、宇都宮市民は猛反発して、一部の計画が頓挫した。市内の3カ所に建設中、及び建設が予定される地域の住民の不安は募るばかりだ。”(以下「本件第二記事部分」という。)
   (三) “栃木県宇都宮市に、「オウム余波」ともいえる大騒動が持ち上がっている。新興宗教団体『幸福の科学』が、市内3カ所に、大規模な研修施設と、宿泊施設の建設を開始(一部地区は凍結)し、地域住民の猛反発を受けているのである。”(以下「本件第三記事部分」という。)
   (四) “全寮制の中・高生向け予備校を作るといっておいて宗教団体の施設を作るというこの「手口」が事実とするならば、あのオウム真理教の「進出」方法と本質的に変わらない。”(以下「本件第四記事部分」という。)
   (五) “『オウムのように付近の人間に危害を加えるんじゃないのか』とか、
 …(中略)…
 『進出反対の貼り紙を暗闇で貼って回っても、ヤツらは凄い調査能力があるそうだから、貼った人間の自宅を突き止めて、トラックで家に突っ込んでくるかもしれないぞ』
 なんて、恐怖に怯える声があったのは事実です”(以下「本件第五記事部分」とい
う。)
   (六) “「6月に挨拶回りにきたときは、オウム真理教に似た不気味な新興宗教だという意識があるから、正直ゾッとしましたよ。…(中略)…いずれ上九一色村みたいに信者であふれかえってしまうんじゃないかという心配は、いまでもありますよ」
 このように、住民は「宗教」や「信仰」に対する偏見ともいえる不安を訴える。表立った反対運動以外にも「第二の上九一色村化」を恐れて、不安を募らせる市民は、教団側が考えるよりはるかに多いのではないか。”(以下「本件第六記事部分」という。)
  3 名誉・信用の毀損
   (一) 本件記事は、原告が、あたかも平成七年三月に開始された強制捜査により、我が国の犯罪史上例を見ないほど凶悪な集団犯罪を犯したことが発覚したオウム真理教(以下「オウム教」という。)と同様であり、極めて危険な団体であるかのような印象を与える。
 オウム教は、山梨県上九一色村にサティアンと呼ばれる教団施設を複数建設し、そこで信者らに食事も満足に与えずに生活させ、マインドコントロールや麻薬等の薬物投与を行い、さらに右施設内でサリン等の毒ガスの生成や武器の製作等の凶悪犯罪遂行の準備をなし、付近住民に漏出した毒ガスで被害を及ぼした上、東京地下鉄サリン事件等の犯罪の謀議を行ったとして、本件雑誌発行前から新聞、テレビ等のマスコミによって繰り返し報道されていた。
   (二) 本件第一記事部分ないし第三記事部分は、原告による栃木県宇都宮市内三か所における教団施設の建設の事実及び宇都宮市民による右教団施設建設反対運動の事実を摘示しながら、「オウム」及び「上九一色村」を引き合いに出すことによって、原告が宇都宮市に教団施設を建設すれば、宇都宮市も「第二の上九一色村」と形容しうる状態になるかのような誤った印象、及び右反対運動は単にオウム教の前記事件報道による宗教一般に対する不安感に基づくものではなく、原告固有の原因に基づくものであるかのような印象を読者に与え、さらには、原告がオウム教と同様に危険で、時には犯罪を犯す虞さえあり、付近住民にも被害を及ぼすため、一般市民全体に嫌悪され受け入れられない団体であるかのような誤った印象をも読者に与えるものであるから、原告の社会的評価を著しく失墜させるものである。
   (三) 本件第四記事部分は、原告による不動産購入の際、売主が契約を締結せざるを得ない時点まで売主に真の買主を隠し、その手法はオウム教の不動産購入の方法と同様であるという事実を摘示するものである。
 オウム教は、不動産を購入する際、売主との間にダミーを挟んだり、形式的には別法人だが実質的にはオウム教と同人格と考えられる法人や信者の名前で購入するという方法を用いて、売主にオウム教の名を秘していたとされていた。
 したがって、本件第四記事部分は、原告が自己の名を秘したまま宇都宮市の土地を取得し、オウム教と同レベルの不正行為をしているかのような誤った印象を読者に与えるものであるから、原告の社会的評価を著しく失墜させるものである。
   (四) 本件第五記事部分及び第六記事部分は、付近住民が原告を誹謗中傷する内容の発言をした事実を掲載し、さらに、不安を募らせる市民は原告が考えるよりはるかに多いのではないかという推測を記述することによって、あたかも原告が、オウム教と同様に、付近の人間に危害を与える危険な団体であると多数の市民に思われているかのような印象を読者に与えるものであるから、原告の社会的評価を著しく低下させるものである。
  4 被告らの責任
   (一) 被告元木昌彦は、原告を継続取材し、原告がオウム教のように凶悪犯罪を犯したこともなく今後も犯罪を犯す危険性がなく、又原告の研修施設が建設されても付近の住民等に被害が発生することはないこと等を熟知しながら、原告に関する報道をするにあたり、あえて“第二の上九一色村になる”等記述し、本件記事を本件雑誌に掲載し、もって原告の名誉・信用を毀損し、原告の研修施設の建設を遅延させたものである。
   (二) 被告会社は、被告元木昌彦を使用する者であり、被告元木昌彦は、被告会社の事業の執行として本件記事を本件雑誌に掲載し、もって原告の名誉・信用を毀損し、原告の研修施設の建設を遅延させたものである。
  5 原告の損害
   (一) 本件記事が掲載された本件雑誌が頒布されたことにより、原告の伝道活動に重大な障害を来したほか、原告が宗教団体として有する眼に見えない「尊さ」が踏みにじられ、宗教としての崇高さを失墜させられた。
   (二) 本件記事の掲載により、原告があたかもオウム教のように危険な団体であり、大規模な反対運動が展開されているかのような誤った印象が広まり、宇都宮市桜地区の研修施設の建築に対する地元住民の同意が得られなくなったため、施設の建築確認手続は約一〇か月遅延した上、当初の一一階建ての計画案を五階建てで床面積も半分以下に縮小せざるを得ず、原告は甚大な損害を被った。
   (三) 加えて、本件記事により、原告の全国数百万人の会員が自らの帰依する原告を誹謗中傷されたことによって、信仰心を傷つけられたり、周囲の人間から注意を受けたり、職場等で好奇の目に曝されたりした。これら会員らの蒙った損害についても、原告の蒙った損害として考慮されるべきである。
   (四) 被告会社は、平成八年一月二九日付けの朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞及び日本経済新聞の各新聞全国版朝刊紙上に、本件雑誌の広告(以下「本件各広告」という。)を掲載することによって、本件記事は広汎に頒布され、原告の名誉はより著しく毀損された。
   (五) 原告の右損害は到底金銭に換算することができないほど甚大であるが、あえて算出するならば、少なく見積もっても金一億円を下らない。
   (六) さらに、原告の被った右損害を回復するには金銭によるのみでは足りず、本件記事の掲載紙である「週刊現代」誌上のグラビア頁における謝罪広告、並びに本件雑誌の新聞広告が掲載された朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞及び日本経済新聞の各紙上における謝罪広告を用いて名誉の回復が図られることが必須かつ相当である。
  6 よって、原告は、被告ら各自に対し、不法行為による損害賠償として、一億円及びこれに対する不法行為の日の後である平成九年二月七日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告の名誉回復のための処分として、別紙(一)ないし(四)記載の謝罪広告の掲載を求める。
 二 請求原因に対する認否
  1 請求原因1(一)の事実のうち、原告が宗教法人法に基づき設立登記を経て設立した宗教法人であることは認めるが、その余は知らない。同1(二)の事実は認める。
  2 同2の事実は認める。
  3 同3(一)の事実のうち、オウム教が山梨県上九一色村にサティアンと呼ばれる教団施設を複数建設し、同施設内で犯罪の謀議及び実行が行われたことは認めるが、その余は否認する。同3(二)ないし(四)の事実は否認する。
 本件記事は、原告が宇都宮市に進出するにあたり住民の反対運動に直面しているという社会的事実を客観的に伝達した報道記事であり、このため、宇都宮市住民の反対運動の声を伝達することも必要不可欠であったのであり、原告に対する批判記事ではない。そして、自己に対する反対勢力が存在する事実自体は何ら自己の社会的評価を低下させるものではなく、本件記事が宇都宮市住民の反対運動を伝達しても、原告の社会的評価を毀損するものではない。
 むしろ、本件記事中には“このように、住民は「宗教」や「信仰」に対する偏見ともいえる不安を訴える。”という記述を加え、中立的な立場で情報を伝達していた。
  4 同4(一)、(二)の事実は否認する。
  5 同5(一)の事実は否認する。同5(二)の事実中、宇都宮市桜地区の研修施設の建設が住民の同意を得られず遅延したことは認めるが、その余は否認する。右遅延は本件記事の掲載によるものではない。同5(三)の事実は否認する。同5(四)の事実中、被告会社が平成八年一月二九日付けの朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞及び日本経済新聞の各新聞全国版朝刊紙上に、本件各広告を掲載したことは認めるが、その余は否認する。同5(五)、(六)は争う。
 三 抗弁
 仮に本件各記事部分により原告の名誉を毀損するとしても、これらは、いずれも公共の利害に関する事項について、専ら公益を図る目的で掲載されたものであり、摘示された事実はいずれも真実であるか、あるいは被告らにおいて真実と信じるに足りる相当の理由があり、さらに本件第四記事部分は、意見言明である正当な論評として違法性を欠くものである。
  1 公共の利害に関する事実及び公益目的の存在
 本件記事は社会的に影響力が大きい新興宗教である原告とその進出に対する宇都宮市の住民の反対運動を内容とするものであり、その内容は公共の利害に関する事実といえる。
 また、本件記事は、平成七年のオウム事件以降の新興宗教を巡る社会環境を読者に報じることを目的としており、専ら公益を図る目的で掲載された。
  2 本件記事の真実性、相当性及び論評の正当性
   (一) 本件第一記事部分ないし第三記事部分
 (1)  真実性
 原告が宇都宮市に進出するにあたり、宇都宮市民が原告をオウム教になぞらえて原告の進出に対して反対する住民運動を起こしたことは事実であり、その反対運動及び住民の声を集約した本件第一記事部分ないし第三記事部分は真実である。
 実際、原告が研修・宿泊施設のため用地購入した桜地区、御幸ヶ原地区及び弥生地区の三か所のうち、桜地区の反対運動団体「桜住民の会」は三五七世帯六〇〇名の住民で構成され、短期間に二万六五八五人の反対署名を集めたもので、宇都宮市民の反対運動と呼んでも何ら不当ではない。途中で反対運動が挫折した御幸ヶ原地区でも四五〇〇人の施設建設の即時中止を求める署名が集まった。その余の地域では取材時に組織的な反対運動は収束していたとしても、住民の不安と不満の声は依然存在していた。
 (2)  相当性
 仮に本件第一記事部分ないし第三記事部分が真実でないとしても、被告会社の取材記者である今若孝夫(以下「今若」という。)記者が平成七年一一月から桜地区を中心に前記三地区の多数の住民から直接話を聞いて取材ノートに書き留め、その結果を集約してデータ原稿として、被告会社に報告してきたものに基づき記事を掲載したのであるから、本件第一記事部分ないし第三記事部分に摘示した事実を真実であると信じるに足りる相当の理由がある。
   (二) 本件第四記事部分
 (1)  論評の正当性
 本件第四記事部分は、仮定を前提とした意見言明にすぎず、相当な論評として違法性を帯びない。
 (2)  真実性
 仮に本件第四記事部分を事実言明として捉えるとしても、原告が、桜地区の施設建設にあたり、売主側を仲介したA不動産に全寮制の予備校を作るとしか告げず、原告名を隠して用地の購入を進めたことは事実であり、本件第四記事部分は真実である。
 (3)  相当性
 本件記事を事実言明として捉えた場合に、仮に本件第四記事部分が真実でないとしても、今若記者が研修施設予定地の売買を仲介したA不動産の常務Bに取材して右記事どおりの証言を得たのであるから、本件第四記事部分に摘示した事実を真実と信じるに足りる相当の理由がある。
   (三) 本件第五記事部分及び第六記事部分
 (1)  真実性
 原告が宇都宮市に進出するにあたり、宇都宮市住民が原告をオウム教になぞらえて原告の進出に不安と不満の声を述べていたことは真実であり、その声を集約した本件第五記事部分及び第六記事部分は真実である。
 (2)  相当性
 仮に本件第五記事部分及び第六記事部分が真実でないとしても、今若記者が御幸ヶ原地区北自治会会長C(以下「C」という。)及び前記三地区の多数の住民から直接話を聞いて取材ノートに書き留め、その結果を集約してデータ原稿として、被告会社に報告してきたものに基づき記事を掲載したのであるから、本件第五記事部分及び第六記事部分に摘示した事実を真実であると信じるに足りる相当の理由がある。
 四 抗弁に対する認否
  1 抗弁冒頭の事実及び同1の事実は、否認する。
  2 同2について
   (一) 同2(一)(1) の事実のうち、原告が研修・宿泊施設建設予定地として、桜地区、御幸ヶ原地区及び弥生地区の各土地を購入したこと及び桜地区の反対運動団体が短期間反対署名を集めたことは認めるが、その余は否認する。
 弥生地区では元々反対運動自体起こらず、研修施設建設後も付近の住民から苦情が出たり、住民に被害を与えたことはない。御幸ヶ原地区では、平成七年七、八月には反対運動が発生したが、今若記者が宇都宮市を取材した一一月には反対運動は終息していた。桜地区でも、同年七月ころから、隣地の小学校、自治会や近隣住民に対する挨拶・説明を誠心誠意行ったため、一部の者を除いて特段の反対はなかった。確かに、桜地区には、研修施設建設に反対するD弁護士(以下「D弁護士」という。)を中心としたごく一部の住民はいたが、宇都宮市民全体が猛反発し大騒動になっていたとは言えない。
 同2(一)(2) の事実は否認する。データ原稿中の住民の証言は取材源が一切特定されておらず、相当性は認められない。
   (二) 同2(二)(1) は争う。意見言明であっても、意見の前提事実は重要部分において真実か、又は真実と信じるに足りる相当な理由が必要であり、本件では、後記のとおり、原告が自己の名を秘して土地を購入したという基礎事実自体が真実ではないので、不相当な論評として違法性を帯びる。
 同2(二)(2) の事実は否認する。
 確かに、宇都宮市内で予備校を経営する原告職員E(以下「E」という。)は、平成七年二月上旬ころ、研修施設の候補地に関する情報を収集するためにA不動産を訪れ、担当者に「研修施設等を建設するのに適当な土地を探している」と説明し、同月一六日に原告が買付条件の提示のための承諾書を売主に対して提出するまで原告が買主であることを明らかにしなかった。
 しかし、Eは、前記発言の際、担当者に対し、土地を購入するのは自分でも自己が経営する予備校でもないことを明言していた。また、原告が買主を明らかにしなかったのは、初めてA不動産を訪れてから約一週間の間だけであり、これは大規模な不動産取引の場合、情報収集の段階では、買主を明らかにしないという取引慣行に基づくものである。そして、売主は、同年二月に承諾書を受領して買主が原告であることを知ってからも、契約締結を拒否することができたのに、これをしなかったものである。
 同2(二)(3) の事実は否認する。今若記者は、桜地区の土地売買契約の直接の担当者であるA不動産のF部長ではなく、契約締結に殆ど関与していないB常務から取材したにすぎないから、本件第四記事部分の事実を真実と信じるについて相当な理由があったとは言えない。
   (三) 同2(三)(1) の事実は否認する。
 実際にこのようなコメントをした者がいるのか疑問である上、その内容も全くの虚偽である。原告がオウム教のように研修施設周辺の住民に危害を加えたことはなく、また、そのような心配の声もなかった。さらに、一八〇〇人程度の上九一色村の人口に比べて、宇都宮市の人口は約四〇万人以上あり、宇都宮市が原告信者であふれかえってしまうことはあり得ない。
 同2(三)(2) の事実は否認する。
 本件第五記事部分をコメントしたとされるCは、今若記者から取材を受けていない。
第三 証拠
 本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理  由

一 当事者
  1 原告が宗教法人法に基づく設立登記を経て設立した宗教法人であることは当事者間に争いがなく、右事実に甲第一号証、第一九号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因1(一)の事実を認めることができる。
  2 同1(二)及び2の事実は当事者間に争いがない。
 二 本件記事による原告の名誉・信用の毀損の有無
  1 本件第一記事部分ないし第三記事部分
   (一) 請求原因3の事実中、オウム教が山梨県上九一色村にサティアンと呼ばれる教団施設を複数建設し、同施設内で犯罪の謀議及び実行が行われたことは当事者間に争いがなく、右事実に、甲第一号証、第二号証の一ないし五、第三号証の一ないし六、第二一号証及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
 (1)  平成七年三月から同年七月にかけて、オウム教に関する報道として、オウム教が代表者麻原彰晃こと松本智津夫(以下「麻原」という。)の下、麻原の行う予言によって信者らの恐怖をあおり、麻原が唱えるハルマゲドンと呼ばれる最終戦争に備えるために武装化を進め、その一環として猛毒の化学兵器サリンや生物兵器、レーザー兵器の開発や銃の量産化をもくろんだり、自衛官による戦闘部隊を結成する計画等を図り、これらの計画は教団全体で組織的に行われ「テロ教団」へ変容していった一連の経過や、その実現行為として平成七年三月二〇日、東京地下鉄サリン事件を実行したこと、同月二二日に始まったオウム教の教団施設に対する強制捜査の結果、右施設からサリンの原材料やサリンを製造する化学プラント、自動小銃の部品等が発見されたこと、平成六年七月に上九一色村の教団施設周辺において発生した悪臭騒ぎの原因は右施設で製造されたサリンが漏出したことによる可能性が高いこと、及び平成七年六月六日、東京地方検察庁は麻原ほか六名を前記地下鉄サリン事件につき殺人罪又は殺人未遂罪で東京地方裁判所に起訴したこと等を内容とする記事が全国一般の各新聞に掲載されていた。
 (2)  本件記事は本件雑誌二一頁以下のグラビア・ページに記載されている。
 本件第一記事部分は、本件記事冒頭の頁にあり、御幸ヶ原地区に建設中の原告の宿泊研修所の建設現場を撮影した写真の下方に、表題として大見出しで掲載されている。
 本件第二記事部分は、本件記事冒頭の頁にあり、前記写真の左上方にリード文の書き出しとして掲載されている。
 本件第三記事部分は、本件記事二頁目にある。その頁右上方には「敷地は3ヵ所で4126坪 小学校の『隣接地』は『予備校』のはずが『新興宗教』だった-」という小見出しが配置され、その左横には見開き二頁にわたって桜地区の原告教団施設の建設予定地を背景にして原告教団施設の建設反対運動団体「桜住民の会」会長D弁護士、副会長及び事務局長の三人が映った写真が掲載され、その写真の下に本文として、D弁護士が教団施設の建設に反対する理由として、「子供たちの学習環境に影響を与えないはずがありません。…新興宗教に対して、何をする団体なのかよくわからないという漠然とした恐怖感を持つ保護者が多いんです」と説明し、続けて本件第三記事部分が掲載されている。
   (二) 本件第一記事部分ないし第三記事部分が、それぞれ「第二の上九一色村になる!!」、「オウム事件のとばっちり」及び「『オウム余波』ともいえる大騒動」という文言を使用していることは、前示のとおりであり、右表現に(一)(1) 及び(2) の事実を併せ考えれば、当時の一般の読者の通常の読み方を基準として判断すれば、右各記事部分は、平成七年に報道された新興宗教オウム教の凶悪事件及びオウム教の教団施設があった上九一色村を想起させるものである。
 しかして、本件第一記事部分は、センセーショナルな隠喩を用いつつ、原告が宇都宮市内に教団施設を建設すれば、宇都宮市も上九一色村と同様に新興宗教団体の拠点となってしまうのではないかと懸念して施設の建設に宇都宮市民が猛反発している事実を摘示するものであり、本件第二記事部分及び第三記事部分は、宇都宮市民の反発が平成七年のオウム教関連の事件の影響を受けており、その反発により現実に施設の建設計画の一部が凍結した事実を摘示するものである。
 以上の点を総合して判断すれば、右各記事部分は、宇都宮市民の中に、原告もオウム教と同様の新興宗教団体であるから、何をする団体か分からないという漠然とした恐怖感があり、そのために原告は宇都宮市民から反発を受けていることを通じて、一般の読者に原告が反社会集団として報道されていたオウム教と同種の反社会的集団であるかのような印象を与え、原告の社会的信用を低下させるものと言える。
  2 本件第四記事部分
   (一) 前示争いのない事実並びに甲第一号証及び第四号証の1、2によれば、次の事実を認めることができる。
 (1)  平成七年三月から同年七月にかけて、オウム教に関する報道として、オウム教が自己の名では取引ができないため、複数のダミー会社を使って、その施設用地を購入していたことを内容とする記事が新聞に掲載されていた。
 (2)  本件第四記事部分は、本件記事の三頁目に掲載されている。約一六〇五坪ある桜地区の研修施設建設予定地(以下、「本件土地」という。)の取得方法につき、「この『幸福の科学』の宇都宮進出が地元住民の不信感を増幅させた決定的な要因がある。それは、『幸福の科学』側の用地買収の「手口」である。」という書き出しのあと、「この広大かつ高額な建設用地を買収する段階で『幸福の科学』は、その正体を隠していたというのである。」と続け、D弁護士の話として、本件土地売買を売主側で仲介したA不動産によれば、地元の大手予備校である株式会社Gの代表Eが「中・高生向けの全寮制の予備校設立のため」本件土地を購入したいと話を持ちかけてきたが、後になって真の購入者は原告であることが分かったということだったと記述して、その後に本件第四記事部分を配置している。
 そして、本件第四記事部分に続けて、被告会社による取材として、「『A不動産』のB常務は『幸福の科学』側の「素性隠し」の事実をあっさりと認めた。」と続け、承諾書を交わした段階で初めてEは原告が買主であることを明らかにした旨記載し、最後に「『私どもはあくまで地主の代行業者であり、商取引上は、その段階で撥ねつける権利はないんです』」と記述されている。
   (二) 本件第四記事部分は、その当該記述部分に限れば一応仮定の表現を取っているが、(一)(2) の事実によれば、B常務から裏付けの取材をしたという後の記述によって、D弁護士の話が関係者の談話によって信憑性を持つものであることを窺わせる体裁をとっており、一般の読者の通常の読み方を基準として判断すれば、本件第四記事部分の前後の記述を総合して、全体として本件第四記事部分が事実を記載したものとして理解されることは明らかである。
そして、本件第四記事部分は、「あのオウム真理教の『進出』方法」という文言を使用しており、(一)(1) の事実を併せ考慮すれば、当時の一般の読者の通常の読み方を基準として判断すれば、平成七年に報道されたオウム教のダミー会社を使った土地購入方法を想起させるものである。
以上によれば、原告が本件土地を購入するために、全寮制予備校を作る旨虚偽の申込みをして、実際には原告の教団施設を建設するという事実及びかかる原告の進出方法はオウム教の進出方法と本質的に同じであるという事実を摘示するものであり、原告が不動産の取得につきオウム教と同様の不正行為をしているかのような印象を読者に与え、原告の社会的信用を低下させるものである。
  3 本件第五記事部分及び第六記事部分
   (一) 前示争いのない事実及び甲第一号証によれば、本件第五記事部分及び第六記事部分は、本件記事の最終頁にあたる四頁目に掲載されており、原告の宇都宮進出に対する地元住民の反応として、原告がこれまで地元の理解を得てきた旨の発表をしている事実を初めに挙げた後、「本当に、多くの地元住民は、この宗教団体の進出を『可』と考えているのだろうか。取材を進めてみると答えはノーである。」と続け、それを裏付けるために、原告との折衝を担当した御幸ヶ原地区自治会役員の恐怖と不安の本音の話として、本件第五記事部分を掲載し、さらに、研修施設建設現場に隣接して居住する住民の一人の怯えと動揺を隠さない話として、本件第六記事部分を掲載していることを認めることができる。
   (二) これらの事実に前示1、2の事実を総合すれば、本件第五記事部分及び本件第六記事部分は、それ以前の記述と総合して、原告は形式的には地元住民の理解を取り付けた体裁を整えても、住民はオウム教の前記一連の事件を想起して原告から危害を加えられるのではないかという恐怖感や不安感を原告に対して抱いている事実を摘示するとともに、このような不安感を抱く市民は原告が予想するより遥かに多いだろうという推測を記述するものであり、これらの記述を総合すれば、原告が付近住民に危害を与える危険な団体であると多数の市民に思われているかのような印象を読者に与え、原告の社会的評価を低下させるものと認めるのが相当である。
  4 被告らは、本件記事が原告の宇都宮進出するにあたり住民の反対運動に直面しているという社会的事実を客観的に伝達した報道記事であり、原告に対する批判記事ではないので、これによって原告の社会的評価等を低下させることはない旨主張する。確かに、本件記事には「このように、住民は『宗教』や『信仰』に対する偏見ともいえる不安を訴える」という記述が挿入され、「偏見ともいえる」という住民に対する否定的評価を加えることによって、本件記事が中立的な立場に立つようにも見えるが、甲第一号証によれば、かかる記述は本件記事の最終頁の最下段に記載されているにすぎず、しかもその後の記述でも「43万人の宇都宮市民に、『幸福の科学』が誠意を理解してもらうための努力は、まだまだ足りないのである。」と結論付けていることが認められる。しかのみならず、本件記事のその余の部分は、住民側の主張が一方的に掲載されている上、記事冒頭の見出しの表現も「第二の上九一色村になる!!」という極めて強い断定的表現を採用していることからして、一般読者は原告に対して否定的イメージを得るのが通常であり、本件記事が原告の社会的評価を低下させることはないということは到底できない。
 さらに、被告らは、反対勢力が存在する事実自体は何ら社会的評価を毀損するものではないとも主張する。しかしながら、本件記事において原告に対する反対勢力とされているのは多数の宇都宮市民であり、その多数の市民により原告が批判されているという印象を一般の読者に与えるものであるから、これによって原告に対する社会的評価は毀損されるというべきである。
 三 抗弁の当否
  1 公共の利害に関する事実及び公益目的の存在
 前示の事実並びに乙第一〇号証及び証人乾智之の証言によれば、週刊現代編集部は、平成七年秋頃、原告による宇都宮市内における研修施設の建設計画に対して、住民による反対運動が起こっているとの情報を得、この事案は、同年三月に発生したオウム教の地下鉄サリン事件や五月の麻原の逮捕等オウム教の一連の事件を受けて、新興宗教に対する社会意識を象徴的に表す社会的事件に当たるものと考え、企画として取り組むことを決めたことが認められる。
 右事実に前示二1(一)(1) の事実及び弁論の全趣旨を併せ考慮すれば、本件第一記事部分ないし第六記事部分を含む本件記事は、平成七年三月に発生したオウム事件以降、社会の関心が向けられている時期に、原告が宇都宮市内に教団施設を建設しようとして市民に反対された事件を記述したものであり、当時社会問題となっていた新興宗教と地元住民との間での軋轢を指摘しているものであるから、本件第一記事部分ないし第六記事部分に摘示された事実は、公共の利害に関する事実であると認められる。
 そして、本件記事の内容に照らせば、本件第一記事部分ないし第六記事部分を含む本件記事は、前記オウム事件発生以後、新興宗教に対する社会意識がどのようなものであるかという視点を与えるものとして掲載されたものであるから、専ら公益を図る目的に出たものと認めるのが相当である(甲第八号証ないし第一五号証から窺われる原告と被告会社間の紛争の存在は、未だ右認定を左右するものではない。)。
  2 本件第一記事部分ないし第三記事部分の真実性及び相当性
   (一) 原告が研修・宿泊施設建設予定地として桜地区、御幸ヶ原地区及び弥生地区を購入した事実並びに桜地区の建設反対運動団体が短期間反対署名を集めたことは当事者間に争いがなく、右事実に、甲第一八号証、第二四、第二五号証、第二七号証ないし第二九号証、第三一号証ないし第三四号証、第四三号証ないし第四六号証、乙第一、第二号証、第四号証ないし第六号証、第九号証の一ないし九、乙第一〇号証、第一二号証ないし第一九号証、第二一号証の一、二、第二二号証、第二四、第二五号証、第二七号証及び証人C、同乾智之、同今若孝夫の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
 (1)  週刊現代編集人である乾智之(以下「乾」という。)は、平成七年秋頃、原告による宇都宮市内における研修施設の建設計画に対して、住民による反対運動の情報を得て、右事件を企画とする旨決定した。乾は、同年一一月、宇都宮市住民の反対運動及び反対署名活動につき取材するため、モノクログラビア班所属の専属契約記者である今若と三上幸男の記者二名及び椿城カメラマンからなる取材班を結成し、宇都宮市に確認取材に行かせた。取材班は、研修施設の建設予定地周辺の住民を中心に、複数の住民を訪問取材し、御幸ヶ原地区においては、住民から幸福の科学建築反対同盟対策協議会(以下「対策協議会」という。)と原告との間の条件交渉の過程を記した文書(乙第一二号証ないし第一九号証)の提供を受けた。
 (2)  弥生地区では、四階建ての一般会員向け研修施設の建設が予定されていたところ、H宇都宮市弥生町自治会会長をはじめとして近隣住民の理解が得られ、平成七年八月二六日、合意文書である「約定書」が締結された。
 (3)  御幸ヶ原地区では、三階建ての職員住宅の建設が予定されていたが、同年六月に原告が挨拶回りを始めたところ、住民の中に原告をオウム教と重ね合わせて捉え、集団化すると何をするか分からない団体として恐れる声が広がり、同年七月、同市御幸ヶ原町北自治会会長のCを会長とする対策協議会が発足し、以後、建築反対の署名活動や市役所建築指導課への陳情等の活動を行った。右署名活動の結果、御幸ヶ原六町分の見込数約一〇〇〇名を除いても、三六〇〇名余の建設反対の署名が集った。
 しかしながら、同年八月ころ、対策協議会は、市役所から原告に建築確認を拒むのは困難であるとの説明を受けて、建築反対の態度から建築をする条件の交渉に移行し、同月二七日、原告との間で右条件を定めた「協定書」の基本合意をし、同年九月一〇日、協定締結の正式調印をした。
 この間、対策協議会の関係者がC名で宇都宮市議会議長に提出した同年八月二五日付の陳情書には、原告が前記三地区の各施設をリンクして使用する諸活動が、一部の宗教法人に見られるような公序良俗に反する行為が行われることがないよう国と県に指導監督を要請願いたい旨の記載がある。これが上九一色村におけるオウム教の活動を暗に擬したものであることは明らかである。
 右協定締結は、法的に建設措置が困難と判明したため、いわば次善の策として行ったもので、住民らが原告に抱いていた不安を解消した結果ではなかった。その内容に納得のいかない者や原告に懐柔されたのではないかと疑惑をかけられた者ら三軒は、右地区から出て行った。
 Cも、右協定締結後、自らの発言の及ぼす影響をおもんばかり、マスコミの取材を拒み続けた。右の事実は、それまでの反対運動の強さを考え合わせると、今若の前記取材時には、組織的反対運動は終息していたにしても、住民の不安と不満の声は依然根強く存在していたことを窺わせるものである。
 (4)  桜地区では、原告が同年六月に施設用地を取得後、一一階建ての職員向け研修施設と四階建ての北関東本部・宇都宮支部の二棟の建設が当初予定されていたところ、原告職員らが自治会長やPTA会長、警察署担当者と面談したり、自治会を通じた近隣説明会、桜小学校を通じた保護者会説明会及び戸別訪問を実施して、説明を継続していた。
 このような中で、D弁護士等同地区住民の一部は、同年一〇月二八日、原告に要求して説明会を栃木県弁護士会館で開催させた上、同年一一月五日、「幸福の科学建設反対運動桜住民の会」を設立し、以後、反対署名活動や原告の説明会実施の要求、街頭宣伝活動等を行った。
 右反対運動の結果、原告は、同月二〇日、建築確認申請を取り下げ、同年一二月一日には建築計画を当面凍結する旨表明せざるを得ず、原告が再び建築確認申請を行ったのは、平成八年一〇月二三日のことであった。
 (5)  桜地区における原告進出反対運動は、平成七年一〇月から一一月にかけて、地元紙の下野新聞や全国紙の朝日新聞の栃木版においても取り上げられ、右住民の会の会員が三〇〇世帯の五〇〇人以上、反対署名は一万六〇〇〇を超すことや右住民の会と原告との話合いが物別れに終わったことが報じられた。
   (二) 以上の事実を総合すれば、原告が宇都宮市内に施設建設を予定した三地区のうち、御幸ヶ原地区と桜地区では、自治会をも巻き込んで強い反対運動が起こったのであり、少なくとも御幸ヶ原地区では原告をオウム教に重ね合わせ、原告の活動を上九一色村におけるオウム教の活動に擬した不安がその基礎にあったことは明らかであって、平成八年一月当時、弥生地区では反対運動があったことは窺われず、御幸ヶ原地区では反対運動は表面上は平成七年八月末に終息していたが、住民の不安や不満は根強く存在しており、桜地区では未だ強固な反対運動が相当規模で行われていたのであって、宇都宮市民が原告の進出に対して猛反発していたとの記事は、あながち虚偽ということはできないというべきである。
 したがって、本件第一記事部分の「『第二の上九一色村になる!!』」、「宇都宮市民が猛反発!」という記述、本件第二記事部分の「宇都宮市民は猛反発し」という記述及び本件第三記事部分の「地域住民の猛反発」という記述は、いささか誇張した趣はあるものの、本件第一記事部分ないし第三記事部分は全体として概ね真実に合致したものと認めるのが相当である。
  3 本件第四記事部分の論評の正当性、真実性及び相当性
   (一) 真実性について
 (1)  甲第一六号証、第一七号証、第四二号証の一ないし三、乙第三号証、第一〇号証、第一一号証、証人乾智之の証言及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
 〈1〉 原告の信者であるEは、平日は東京で原告職員の仕事に従事し、週末は宇都宮で自己が経営する小中学生向けの学習塾「G」の仕事に従事していた。
 〈2〉 Eは、平成七年二月初旬、原告内部で宇都宮方面に研修施設を建設する計画が内定したため、宇都宮に長年居住して宇都宮に詳しい者として物件情報の収集担当者となり、そのころ、宇都宮を中心に取引きする不動産業者「A不動産」に物件情報を収集しに行き、F部長とB常務から話を聞いた。
 〈3〉 Eは、F部長及びB常務に対し、宇都宮市内かその近辺で数千坪から数万坪の広さの学校や研修施設にふさわしい土地を探している旨を伝えたが、買主が原告であることや自己の原告における立場については触れなかった。
 〈4〉 Eは、A不動産から本件土地を紹介され、同月一六日、売主たるIの事務所において、承諾書を交換することとなったが、依然買主を明らかにしていなかった。
 〈5〉 同日は、売主側としてIの専務とF部長、買主側として原告総合本部長J、原告側仲介業者K及びEが集った。その席でEが初めて買主代表としてJを紹介したところ、右専務は「(原告会員で作家の)景山(民夫)さんのファンなんです。御会には安心してお譲りできる。」と述べ、Fも「そうじゃないかと思ってたんだよ!」と述べた。右やりとりの後、右専務は承諾書の宛名欄に直筆で「幸福の科学」と書き入れ、原告側に承諾書を交付した。
 〈6〉 本件土地の正式な売買契約が締結されたのは、同年六月二九日であった。
 (2)  以上の事実によれば、原告の物件情報の収集担当者となったEは、初めてA不動産を訪れた平成七年二月初旬から本件土地の売主と承諾書を締結した同月一六日までの間は、買主が原告であることを告げなかったことが認められる。
 しかしながら、乙第三号証及び第一一号証中、EがA不動産担当者に対して全寮制の予備校を作ると虚偽の申込みをした旨の部分は、甲第一六号証に照らせば、乙第三号証は、原告に用地を売却したことを桜住民の会にとがめられたA不動産側がその言い訳のために作成した文書である疑いがあること、前示〈3〉の事実、EはA不動産に対して「私の塾がやるんじゃない。」と言った旨の甲第一六号証の記載に照らしてたやすく採用できず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
そうとすれば、Eは、承諾書を交換した二月一六日当日まで買主を積極的に告げなかっただけであり、承諾書を交換する際には買主を明らかにしており、その日から六月二九日の正式な売買契約の締結まで四か月以上の期間があったのであり、この間売主において契約を見直す自由が制約されたとは考え難いから、本件第四記事部分の「全寮制の中・高生向け予備校を作るといっておいて宗教団体の施設を作る」という記述は、真実に合致するものとは認められない。
   (二) 相当性について
 (1)  甲第一号証、第二四号証、乙第一〇号証及び証人乾智之の証言によれば、本件土地売買を実際に担当したのはB常務よりもF部長であり、B常務は一度交渉に同席したにすぎないこと、今若記者らによる宇都宮市への取材の際、今若記者がA不動産の責任者としてB常務と面談によって本件土地売買に関する取材を行ったこと、及び取材班はEに取材を申し込んだが断られたことが認められる。
 (2)  右の事実によれば、今若記者は、本件土地売買の経緯につき直接の交渉担当者からは取材していないことが認められる。確かに、今若記者は本件土地売買の責任者であるB常務から取材したものではあるが、取材内容がEの発言した内容を核心とするものである以上、直接の交渉担当者から取材しなければ、供述内容が伝聞を含み不正確なものとならざるを得ず、それ自体の裏付け取材が必要というべきである。しかるところ、取材班はB常務からの取材のみにより、買主側の仲介業者であるJからも裏付け取材をしていないことが認められる。
したがって、本件第四記事部分に摘示した事実を真実であると信じるに足りる相当の理由は認められない。
  4 本件第五記事部分及び第六記事部分の真実性及び相当性
   (一) 本件第五記事部分及び第六記事部分は、右各記事部分が原告の宇都宮進出に対する宇都宮市民の反発をその趣旨とするものであるから、その真実性の対象は、原告に対する誹謗中傷の内容の存否ではなく、誹謗中傷の発言自体の存否にあると解すべきである。
   (二) 本件第五記事部分について
 (1)  甲第一号証によれば、本件第五記事部分は御幸ヶ原地区の自治会の役員が住民の恐怖に怯える声として発言した記載内容になっていることが認められる。そして、今若記者が取材結果をまとめたというデータ原稿(乙第二〇号証)には、右記載に沿う部分があるところ、証人今若の証言によれば、右自治会の役員とはC自治会会長を指し、同人から聞いた住民の発言として右記事部分を記載していることが認められる。
 (2)  証人今若は、平成八年一月九日、C宅を訪れ、直接同人から右発言内容を聞いた旨供述する。しかしながら、右供述に係る取材の様子は冬季に暖房のない玄関先で二〇分位話を聞いたという得心のいかないものであり、また、右の時点では、対策協議会による組織的反対運動は終息しており、Cがあえて右のような内容の発言をするような状況になかったのであって、今若の右供述は、右取材を否定する証人Cの証言(同人の陳述書である甲第二八号証、第四四号証、その妻の陳述書である甲第四五号証はいずれも同旨)に照らすと、果たして今若記者がCに取材をしたかどうか疑わしい点が残り、証人今若の前記供述はたやすく採用できない。同様にして乙第二一号証の一がCに対する取材結果をメモしたものである旨の同証人の供述も採用し難く、ひいては、データ原稿たる乙第二〇号証も採用できない。他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
右の事実によれば、今若記者がC自治会会長から本件第五記事部分に該当する発言を取材した事実は認められないのであるから、右記事部分を真実であると認めることはできない。
   (三) 本件第六記事部分について
 (1)  甲第一号証によれば、本件第六記事部分前段は、施設の建設現場に隣接した住民の一人の発言を記載したものであることが認められ、前記データ原稿には右記載に沿う部分がある。
 (2)  しかしながら、証人今若は、右データ原稿の部分は御幸ヶ原地区の複数の住民の発言をまとめたものである旨供述しており、住民の一人の発言として掲げた本件第六記事部分は、その発言主体数の点で既に右供述とそごしているのみならず、そもそも右データ原稿に係る発言が実際に右地区のいかなる住民によってされたのかは同証人の証言によっても詳らかでなく、前示のとおりCに対する取材の事実が疑わしいことを考え併せると、右供述自体たやすく採用し難く、ひいては、右データ原稿の記載部分も採用できない。他に本件第六記事部分前段の右事実を認めるに足りる証拠はない。
してみれば、右記事部分を真実であると認めることはできない。
 (3)  甲第一号証によれば、本件第六記事部分後段は、同前段までの住民に対する取材結果を受けて、これに対する評価を加えた記事と認められるところ、右取材結果の記載が真実と認められる以上、右評価はその基礎を欠くもので、それ自体相当性を是認しえないというべきである。
   (四) 以上の事実によれば、本件第五記事部分及び第六記事部分に摘示した事実は、いずれも真実に合致するものとは認められず、かつ取材に基づくものとは認め難い内容を取材した相手の発言として記載したのである以上、その記載内容を真実であると信じるに足りる相当の理由があるとは認められない。
  5 してみれば、抗弁は本件第一記事部分ないし第三記事部分については理由があるが、本件第四記事部分ないし第六記事部分については失当である。
 四 被告らの責任について
  1 以上によれば、被告元木昌彦は本件第四記事部分ないし第六記事部分を含む本件雑誌を編集、発行し、これによって不当に原告の名誉を毀損したというべきであるから、民法七〇九条に基づき原告の被った損害を賠償する義務がある。
  2 また、被告元木昌彦が被告会社の被用者であることは、前示確定したとおりであり、同被告の本件雑誌の編集、発行が被告会社の事業の執行としてされたことは弁論の全趣旨から明らかであるところ、被告元木の右編集、発行が不法行為になることは1のとおりであるから、被告会社は、民法七一五条一項に基づきこれによって原告の被った損害を賠償する義務がある。
 五 原告の損害について
   (一) 本件第四記事部分によって、原告の社会的評価が低下したことは前示二2(二)のとおりであり、本件第五、第六記事部分によって原告の社会的評価が低下したことは前示二3(二)のとおりである。原告がその主張するような宗教法人であることからすれば、右のような社会的評価の低下がその宗教活動、とりわけ布教の推進、信者の帰依心の堅固化あるいは新規施設の建設等にとって大きな不利益をもたらすことは、推認に難くない。しかしながら、他方右社会的評価の低下とりわけ本件第五、第六記事部分に係るそれは、正当性が認められる本件第一記事部分ないし第三記事部分によるそれと重複する意味合いの強いものである。
   (二) 甲第七号証の一ないし三によれば、平成八年一月二九日付の朝日新聞の一九面下段、讀賣新聞五面下段、日本経済新聞の一一面下段に、それぞれ本件雑誌の広告が掲載され、その中に「幸福の科学『栃木進出』に宇都宮市民が猛反発!」という見出し文が掲載されていることが認められる。
 しかしながら、右見出し文は、本件第一記事部分ないし第三記事部分に係るものとみるべきところ、右各部分の記事については、被告らの抗弁が成立するのであるから、これにより原告が損害を被ったものと認めることはできない。
   (三) 原告は桜地区における施設建築の遅延及び建築内容の変更が本件記事による旨主張するけれども、本件雑誌が発売される以前から同地区で原告進出に対する反対運動が強かったことは前示のとおりであって、右遅延、変更がこれとは別に、本件記事によってもたらされたと認めるに足りる証拠はないから、右主張は採用できない。
   (四) 以上の点に本件口頭弁論に顕れた諸般の事情を総合考慮すれば、原告の名誉・信用の毀損による損害は、金銭的に評価すると一〇〇万円と認めるのが相当である。
   (五) 本件第四記事部分ないし第六記事部分による名誉毀損の態様に(二)の事実を併せ考慮すれば、原告の前記損害は謝罪文及び謝罪広告を掲載させるのを相当とするほどのものではなく、金銭の支払を受けることによって慰謝されると解すべきであるから、謝罪文及び謝罪広告の請求は理由がない。
 六 結論
 以上の次第であるから、原告の請求は被告らに対し連帯して一〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成九年二月七日から民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるので認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法六一条、六四条、六五条一項ただし書を適用し、仮執行宣言は相当でないのでその申立てを却下し、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 信濃孝一 裁判官 齊木利夫 裁判官 志賀勝)

 別紙(一)~(四)〈省略〉