東京地裁平成11年5月25日判決

◇ 東京地裁平成11年5月25日判決 平成8年(ワ)第25504号損害賠償請求事件
 (平成11年2月9日口頭弁論終結)

          判         決

   山梨県東山梨郡(略)
       原       告     X
       右訴訟代理人弁護士     山   口       広
       同             杉   山   典   彦
       同             渡   辺       博
       同             朝   倉   淳   也
   東京都杉並区本天沼三丁目一番一号
       被       告     宗 教 法 人 幸 福 の 科 学
       右代表者代表役員      大   川   隆   法
   東京都品川区平塚二丁目三番八号宗教法人幸福の科学内
       被       告     A
   栃木県宇都宮市(略)
       被       告     B
       右被告ら訴訟代理人弁護士  小 田 木       毅
       同             佐   藤   悠   人
       同             松   井   妙   子
       同             野   間   自   子

          主         文

 一 原告の請求をいずれも棄却する。
 二 訴訟費用は原告の負担とする。

          事 実 及 び 理 由

第一 請求
   被告らは、原告に対し、各自金二億六四〇〇万円及びこれに対する平成三年
  七月一日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。

第二 事案の概要
   本件は、被告宗教法人幸福の科学(以下「被告幸福の科学」という)の信者
  で職員でもあった原告が、同じく同被告の信者であり職員でもある被告B(以
  下「被告B」という)及び同A(以下「被告A」という)が共謀して原告を脅
  迫し、原告に被告幸福の科学に対する二億円余に上る献金を強制して交付させ
  たことが不法行為に該当するなどと主張して、被告らに損害賠償を求めた事案
  である。
 一 前提事実(証拠の掲記のない事実は当事者間に争いがない)
  1 当事者
   (一) 原告は、被告幸福の科学の元信者であり職員でもあった者であり、平成
     二年一二月一五日以降宗教法人C神社(以下「C神社」という)の代表役
     員を務め、山梨県甲府市丸の内所在の駐車場とゴルフ場賃貸用地を管理す
     る会社の経営を行っている(甲一二二)。
   (二) 被告幸福の科学は、大川隆法(以下「大川」という)が昭和六一年に創
     設した宗教団体であり、平成三年三月に宗教法人法に基づいて宗教法人と
     して認証された。
   (三) 被告A及び同Bは、被告幸福の科学の信者であるとともにその職員でも
     ある者らである。
  2 原告の被告幸福の科学入会に至る経緯
   (一) 原告は昭和六〇年三月早稲田大学教育学部を卒業後、印刷会社に就職し
     たが、昭和六三年二月二五日D(以下「D」という)及びE(以下「E」
     という)夫妻の養子となり、平成元年八月右印刷会社を退職して養父母の
     住む山梨県八代郡御坂町に移り住んで同居するようになった。原告の養父
     となったDは、昭和五五年一〇月二九日C神社を設立し、同神社の宮司と
     してその運営管理を行っていた(甲一二二、乙一)。
   (二) 養父母と同居を開始した原告は、Dが運営するC神社を承継するために
     宗教行事の基本を身につける必要があったことから、同人の勧めに従い平
     成元年九月から一年間の予定で山梨県北巨摩郡小淵沢町にあるF神社で住
     込修業を開始した。原告は神道宗教行事の習得のかたわら、様々な宗教関
     係書を大量に読み漁るうち、大川の著書に興味を引かれ、その教えを正し
     いものであると信じ込むようになっていった(甲二一二)。
   (三) 原告は平成二年二月ころ、大川の著書に挟まれていたチラシに記載され
     た「幸福の科学山梨地区連絡所」に電話したところ、被告Bの対応を受け、
     同被告の誘いで同月一〇日ころ山梨県甲府市(以下省略)にある山梨地
     区連絡所を訪問し、同被告と初めて面識を持った。当時の連絡所はその後
     同被告の娘婿となるGの自宅の一部が当てられていた。原告は同被告から
     山梨県下における被告幸福の科学の信者組織の責任者であるとの自己紹介
     を受け、また、原告が住込修業をしていたF神社のある小淵沢町内に住む
     Hを同被告の信者として紹介された(甲二一二、乙三八)。
   (四) 原告は平成二年二月一三日被告幸福の科学への入会願書を千代田区紀尾
     井町にあった同被告の総合本部事務所に持参して提出し、同月一七日付け
     で会員として登録された(甲一二二、乙一四)。
   (五) 原告は、平成二年六月、F神社における住込修業を予定より早く終了さ
     せてC神社に戻り、養父母の実家で同居生活を再開したが、その際、C神
     社の関係者に対して「今後は、父Dのもとでさらなる修行を重ね、真の神
     官をめざして日夜精進するとともに、大川隆法氏の主宰する幸福の科学を
     支援していく所存でございます」と記した挨拶状を送付した。
      原告はC神社に戻って以後、週に一回程度の割合で被告幸福の科学の山
     梨連絡事務所に出かけてはビデオ学習会を受けたり、毎週一回催される伝
     道日には知人に電話をかけてビデオ学習会への参加を勧誘したりするなど
     の信者活動を行っていたところ、平成二年七月ころ、被告Bから山梨地区
     東ブロックのブロック長になるよう勧められてこれを承諾した。また、原
     告はそのころ、同被告からその知人で姓名判断士と称する人物を紹介され、
     同人から「『X』という名前は今生きているのが不思議なくらいの不吉な
     名前であり、『X’』と名乗ることによって運気が良くなる」と言われ、
     被告幸福の科学の信者内ではそれ以降「X’」と称するようになった。
     (乙二八)
   (六) Eは平成二年八月三〇日同人の所有名義であった甲府駅北口の土地を約
     一五億円で売却し、Dも同人の所有名義であった甲府市湯村の土地を三億
     円で売却した。原告は養父母の指示に従って右土地の売却手続を行い、養
     父母が原告に対して「右売却代金についてはいずれ原告に贈与するので原
     告がその管理をするように」と申し渡され、右代金をD名義の銀行口座に
     入金して管理した(甲一二二、一三二、原告本人)。
   (七) Dは、原告から被告幸福の科学の活動について話をされたり、勧められ
     る大川の著書を読んだりするうちに同人の教えを高く評価するようになり、
     平成二年九月三〇日、同被告に正式に入会した。Dの右入会申込書には「
     私は十数年に更り個、家、社会、国家、地球ユートピアの構想に憧れて来
     た。今回漸くにして我が師を得た次第である」との所信が記されているが、
     それは同人が自筆したものを原告に転記させたものであった。Dは、平成
     二年一〇月二八日のC神社創立一〇周年祭に当たり、同日付け「C神社要
     人へのお願い」と題する文書をC神社関係者に配布して被告幸福の科学の
     運動への協力を呼びかけているが、右文書には「私共は今こそ率先陣頭に
     立たねばならぬ。この時、私の考えと少しも変らぬ願っても得られぬ待望
     久しかった指導的知識人、大川隆法先生が現れた。私共が先生に同調する
     のも当然である。私共C神社要人が、この運動に協力する事をお願いする
     しだいである。」と記載していた。また、原告は右創立祭参加者全員に文
     庫本「太陽の法」ほか二冊を配布した(甲一二二、乙二九の1、2、三〇、
     一〇一)。
   (八) 原告は、前記のとおり山梨地区東ブロックのブロック長に任命されたこ
     とから、被告幸福の科学の組織活動、特に伝道活動(会員への勧誘活動等
     )に熱心に従事するようになり、平成二年一一月八日及び同年一二月二七
     日、当時同被告の関東統括支部支部長を務めていた被告Aから優秀伝道者
     として表彰状を授与された(甲九八の1、2、甲一二二)。
   (九) Dは平成二年一一月二二日死亡した。
  3 原告の被告幸福の科学に対する献金(その1)
   (一) 原告は、D死亡後の平成二年一二月一二日ころ、被告幸福の科学に対し
     一〇〇〇万円を交付した(以下「本件金員一」という)。
      被告幸福の科学は本件金員一を当初Eからの借入金として処理し、原告
     に対し同被告・E間の平成二年一二月一二日付け金銭消費貸借契約書を交
     付した。その後、同被告は本件金員一を平成三年一一月二一日付けで献金
     に切り替え、原告に対しE宛の同日付け領収証を交付した
     (甲一の1、2、乙三五、三六、一一四)。
   (二) 平成二年一二月一五日午後二時から、甲府ホテル二階会議室において、
     D死亡に伴うC神社代表役員代務者選任と今後の活動方針を議題とするC
     神社責任役員会が開かれ、同日午後四時三〇分から新代表役員選任を議題
     とする同役員会が開かれた。
      最初の責任役員会ではC神社の今後の活動方針として被告幸福の科学を
     支援していくことが決定され、更に、二度目の責任役員会では原告が代表
     役員に選任された。最初の責任役員会における今後の活動方針に関する決
     定事項の記載文言は以下のとおりである。
     (1) 故Dの遺言に基づき、故人の理想を受継ぎ、幸福の科学の運動を当
      法人として一層の向上及び実現を期す。
     (2) 幸福の科学の月刊誌または大川隆法氏の書籍を基に、正しき心を探
      究し、かつ真実の世界観、人生観に目覚めておりながらも、この世的に
      も偉大な存在を意とする、偉大なる常識人を目指す。
      (乙三二の4ないし9)
  4 原告の被告幸福の科学に対する献金(その2)
   (一) 被告幸福の科学は、平成三年一月、全国の会員数を百万人にするための
     下地づくりとして「ミラクルダッシュ」なる方針を提示して組織の拡大を
     図った。右組織拡大の過程で山梨県の組織を支部と称することとなり、被
     告Bが責任者となって山梨支部事務所が開設された。これに伴い、原告は
     山梨地区東ブロックのブロック長から山梨支部東地区の地区長に昇格し、
     ほとんど毎日のように支部事務所に出向いて被告幸福の科学の組織活動に
     従事していた。
   (二) 原告は、平成三年一月一四日に一億六五〇〇万円、同月一七日に三五〇
     〇万円の合計二億円を、それぞれC神社名義で被告幸福の科学大川名義の
     口座に送金して同被告に交付した(以下「本件金員二」という)。
      被告幸福の科学は当初本件金員二をC神社からの借入金として処理して
     おり、原告に対し被告幸福の科学・C神社間の平成三年一月一七日付け金
     銭消費貸借契約書を交付した。本件金員二は、被告幸福の科学が法人格を
     取得した後である平成三年七月三一日付けで献金に切り替えられ、同被告
     は原告に対しC神社宛の金額二億〇一〇七万三九七二円(利息込み)の右
     同日付け領収証を交付した(甲二の1、乙一〇八ないし一一〇)。
   (三) 被告幸福の科学は、平成三年一月から七月までの間、「ミラクル九一」
     と称する同被告の会員を百万人にするという活動方針を提示し、「ミラク
     ル」と称する冊子などの書籍を広く頒布して会員勧誘に用いるよう傘下支
     部に指示するとともに、同年五月中旬ころ三〇〇〇億円を集めるという計
     画を発表した。
   (四) 被告Bは、平成三年五月二〇日ころ、原告に対して三億円を被告幸福の
     科学に貸し付けてくれるよう依頼したところ、原告は平成三年五月二二日
     に二億円、翌二三日に一億円の合計三億円を、いずれもC神社名義で同被
     告主宰大川名義の口座に送金して同被告に貸し付けた。平成三年五月二二
     日に送金された二億円については、返済期限を平成四年五月二二日とする
     C神社・同被告問の平成三年五月二二日付けの金銭消費貸借契約書が作成
     され、平成四年五月一九日、年三パーセントの割合による利息五九八万三
     五六一円を付して同被告からC神社に返済された。平成三年五月二三日に
     送金された一億円については、返済期限を平成四年五月二三日とするC神
     社・同被告問の平成三年五月二三日付けの金銭消費貸借契約書が作成され
     た。右貸付けについては、返済期日が二度にわたって変更され、その間同
     被告が年三パーセントの割合による利息を支払い、最終的に平成五年五月
     二一日、C神社名義の銀行口座に振り込んで返済された(甲八の1ないし
     3、九の1ないし6、一二二、乙二ないし一一、一〇一)。
   (五) 原告は、平成三年五月ころ、C神社名義で「御坂町の皆様へのお願い」
     と題する文書に左記のとおり記載して町民に配布し、被告幸福の科学の運
     動への協力を呼びかけた(乙三三)。
                記
     (1) 竹居にあるC神社の宮司のXと申します。昨年九四才で他界いたし
      ました父の遺言を受けて皆様にお願い申し上げます。それは、幸福の科
      学の押し進める全人類幸福化運動への協力です。
     (2) 御坂町の皆様方どうか同封の小冊子をご覧いただいて、この人類幸
      福化運動の主旨にご賛同下さいますようにお願い申しあげます。この運
      動の理解を深めていただく意味でも、月刊「幸福の科学」の購読をおす
      すめしています。今回に限り、六か月分の購読料(月購読料二一〇〇円
      ×六か月)をC神社で負担させていただきますのでふるって同封のハガ
      キでお申し込み下さい。
  5 原告の被告幸福の科学の職員への就職
    原告は、右のとおり信者活動を続け、金銭出捐を重ねていたが、被告幸福
   の科学の職員となるために書類審査資料として平成三年四月二九日付けで信
   仰生活に関する報告書を作成し、同年五月二九日付けで履歴書を作成してい
   るが、右履歴書において希望する部署として「活動推進局」と記載している。
   そして、同年六月七日、東京で職員採用面接を受け、同年七月一日、同被告
   の職員に採用された。原告は、同被告の職員として採用された後である同月
   一七日付けで「誓約書(職員として入居に際しての心構え)」を作成し、右
   誓約書において「仏陀様から預からさせていただいた山梨東部支部を日本一、
   いや世界一輝いた地域にしていきたいと思います」、「伝道目標を必ず必達
   させていただきます」といった抱負、決意を開陳している(乙一五ないし一
   八、一〇一)。
  6 原告の被告幸福の科学に対する献金(その3)
    原告は、平成三年七月二日に一〇〇〇万円、同月一一日に一〇〇〇万円の
   合計二〇〇〇万円を被告幸福の科学山梨統括支部の口座に送金し(以下「本
   件金員三」という。なお本件金員一ないし三を併せて「本件各献金」という
   ことがある)、右山梨統括支部は同月三日及び同月一二日に右各金員を同被
   告の預金口座に振り込んだ。
    右山梨統括支部は原告に対し、本件金員三のうち平成三年七月二日に送金
   された一〇〇〇万円のうち八〇〇万円についてはE宛の、残り二〇〇万円及
   び同月一一日に送金された一〇〇〇万円についてはC神社宛の各同日付けの
   領収書を交付した(甲三ないし七の各1、乙六五ないし六九)。
  7 右献金後の原告の活動等
   (一) 原告は平成四年七月、被告幸福の科学の信者としての活動を通じて知り
     合ったIと結婚し、同年七月に長男J、平成六年六月に二男Kをもうけた。
     また、原告は平成四年八月一日Hと被告Bの長女の結婚式及び結婚披露宴
     に出席し、同人らの結婚を祝福した(甲一二二、乙一二、二二の9ないし
     11、二三の2)。
   (二) 原告は平成四年一一月山梨支部で開催された「幸福家庭祈願祭」に参加
     し、右式典において儀式の司会を務めた。右式典には被告Bも参加してい
     た(乙二二の13ないし16)。
   (三) 原告は、平成四年八月から平成五年一月ころに行われた被告幸福の科学
     山梨支部の活動である「繁栄・発展の会」に主任として参加していた(乙
     一〇五ないし一〇七、原告本人)。
   (四) 原告は、本件訴訟の原告代理人も務めている弁護士山口広及び同杉浦典
     彦を通じ、平成八年二月一五日付け通知書で被告Aほか一名に対して同会
     の職員を退職したことに伴う離職票交付等を求めたが、同書面には、原告
     は「幸福の科学の教理及び大川主宰先生に対する純粋な信仰を今も持ち続
     けており、信者として生活していきたいと切望しています」と記載されて
     いる(乙八四の1、2)。
 二 原告の主張
  1 被告Bは同Aと共謀の上、原告に対し以下のとおり脅迫行為を行い、その結
   果、原告の畏怖に乗じて同人から多額の財産を領得した。
   (一) 本件金員一について
      被告Bは、平成二年一二月一一日午後四時ころ、原告を被告幸福の科学
     山梨地区事務所に呼び出し、約一時間にわたって原告に対し「あなたの財
     産は、神仏が救世運動のためにあなたに預けたものであって、本来そのた
     めに使わなければならない。お金を出すことでなくなったお父さんも喜ぶ。
     お父さんは『X君がそのお金を出すまであの世に帰れない』と言っている。
     お金に執着していると地獄におちて悪霊になる。地獄界の苦しみから逃れ
     たくて地上の人に憑依してその人まで悪霊の支配を受けてしまう。財産な
     どのこの世的なものに執着するなと大川主宰先生も言っている。お父さん
     もそう希望していることが私には分かる。今世執着を残すと次の転生では
     人間として生まれることができない」などと語気鋭く述べて脅迫的説得を
     行い、右山梨地区を支部に昇格させた上、支部としての事務所を開設する
     ための資金として一〇〇〇万円を交付することを承諾させた。原告は翌一
     二日被告幸福の科学山梨地区事務所において、被告Bに対し本件金員一を
     交付した。
   (二) 本件金員二について
     (1) 被告Bは、平成三年一月一〇日ころ、原告に対し同被告の経営する化
      粧品雑貨店「キャンディ」内において二億円を貸付金として被告幸福の
      科学に交付するよう要求して次のように述べた。
       「X君は土地を売ったお金が一〇億くらいあったな。そのうち二億円
      を大川先生にお預けしないか。お金に執着して献金できないお前みたい
      な者でも、銀行のように利息の付く貸付金ならできるだろう。これでお
      父さんもまた上の世界に帰れる。良い親孝行ができる。私に逆らうこと
      は私を任命した大川先生にたてつくことになる。たてついた人間は皆地
      獄に堕ちる。私の言うことには服従しないといけない。私の言うことを
      聞かない奴は、和合僧破壊の罪を犯したことになる。殺人や強盗より重
      い罪だ。分かっているのか」
       原告は、被告Bの右のような脅迫的説得により畏怖し、被告幸福の科
      学に対し本件金員二を交付して貸し付けた。
     (2) 被告Bは、平成三年五月二〇日ころ山梨支部事務所において、原告に
      対し金三億円を被告幸福の科学に貸し付けるよう指示した。原告はこれ
      を拒否できず、平成三年五月二二日に二億円、翌二三日に一億円の合計
      三億円を被告幸福の科学の口座に振り込んで貸し付けた。
     (3) 被告Bは、平成三年六月下旬ころ、原告に対し 「おまえは今幸福の
      科学がどういう状況か知っているか。幸福の科学は今が一番大変なとき
      で、大川先生の法が広がるかどうかの瀬戸際だ。おまえだけがいい生活
      するんじゃない。お前のお金は今しか使うときはない。おまえのお父さ
      んもあの世から献金しろと言っている。今お金を出さなかったら、来世
      は人間に生まれられなくなるからな。これが最後のチャンスだと思え。
      私が献金の機会を提供してやっているんだ。幸福の科学に貸している五
      億円のうち二億円を献金しろ。私に逆らったら三宝帰依ができていない
      から除名する。和合僧破壊の罪をお前は犯すのか。地獄行きだぞ」と述
      べて、右(1)、(2)の五億円の貸付金のうち二億円を献金するよう指示し
      た。
       原告は、被告Bの右脅迫的かつ威圧的な説得により畏怖し右被告の指
      示を承諾した。
   (三) 本件金員三について
      被告Bは、平成三年六月末ころ、原告に対し電話で「お前がミラクルの
     お金は全て出せ。出さなかったらただじゃおかない。おまえの財産は大川
     先生がお前に預けただけだ。私の命令に逆らう会員は除名され地獄に堕ち
     る。和合僧破壊の罪を犯すことになる。いつまでも生まれ変わって来れな
     くなる。いいのか。山梨支部としてあれを払えと本部から言われているん
     だ。早く払え」などと再三催促して、右冊子「ミラクル」等の代金合計二
     〇〇〇万円を支払うよう説得した。
      原告は被告Bの右のような脅迫的かつ威圧的説得を拒否できず、被告幸
     福の科学に対し右代金として本件金員三を支払った。
   (四) 運転資金名下の四〇〇万円の領得
      被告Bは、平成三年四月二〇日ころ、被告幸福の科学甲府支部事務所に
     おいて、原告に対し「活動資金がないからお金を出して欲しい。私は救世
     運動に忙しくてまともに働くことができず、借金がある。X君は光の天使
     である私を支える義務がある。大黒天といって、法を広げる使命をもった
     天使を助ける義務がある。この使命を果たさないと地獄に堕ちるしかない
     」などと脅迫的言辞を述べて原告を畏怖させ、四〇〇万円の交付を迫った。
      原告は、被告Bの右脅迫的言辞に畏怖し、原告名義の銀行口座から同年
     四月二六日に三〇〇万円、同年五月二日に七七万七〇〇〇円を引き出した
     ほか手持ちの現金と合わせて、同月初めころ被告Bに対し四〇〇万円を交
     付した(以下「本件金員四」という)。
  2 被告らの不法行為責任
   (一) 被告B及び同A
      被告Bは同Aと共謀の上、原告に対し前記のとおり脅迫行為を行い、原
     告の畏怖に乗じて同人から多額の金員を交付させた。また、被告Aは同B
     の上司であり、常に同被告と緊密な連絡を保って原告からの財産の領得を
     企て、同被告をして原告に対する脅迫行為を行わせて原告から多額の金員
     を交付させた。
      したがって、被告Bと同Aは連帯して原告に対する不法行為の責任を負
     う。
   (二) 被告幸福の科学
      被告幸福の科学は、被告B及び同Aを雇用している使用者であり、資金
     獲得という被告幸福の科学の事業の執行のために被告Bらに原告に対する
     脅迫行為を行わせて原告を畏怖させ、多額の金員を同人から領得した。
      したがって、被告幸福の科学は民法七一五条により被告Bらの原告に対
     する不法行為について使用者責任を負う。
  3 損害
   (一) 財産上の損害
      被告らの不法行為により原告に生じた財産上の損害は前記のとおり合計
     二億三四〇〇万円である。
   (二) 精神的損害
      原告は、被告らの前記脅迫行為により畏怖し、その結果被告らのために
     二億三四〇〇万円にものぼる多額の出捐を強制され、これを喝取されるに
     至った。被告らの右不法行為により原告が被った精神的損害は一五〇〇万
     円を下らない。
   (三) 原告は、前記損害金二億三四〇〇万円の回復を求めて弁護士に委任して
     本件訴えを提起することを余儀なくされ、原告代理人らに対して着手金及
     び成功報酬として合計一五〇〇万円を支払うことを約束した。
  4 消滅時効の抗弁に対する反論
    被告らは、原告の請求が不法行為のあったときから三年以上経過している
   として消滅時効を主張しているが、原告に対する被告Bらの脅迫的言辞を弄
   した働きかけは、本訴請求の対象となる不法行為の後も継続反覆して繰り返
   されてきたものである。原告は、少なくとも平成六年九月三〇日まで繰り返
   し法外な金員を被告幸福の科学に献金又は貸金名下に交付させられている。
   原告がこのような被告らの脅迫的言辞から自由になって右不法行為に対する
   損害賠償請求ができるようになったのは、平成七年三月一一日に原告が被告
   幸福の科学の職員としての立場を離れ、更に平成八年一一月一九日に被告幸
   福の科学を退会することを決意してその意思表示をするに至ってからである。
    したがって、右不法行為についての消滅時効の起算日は平成八年一一月一
   九日である。
  5 よって、原告は、被告B及び同Aに対しては民法七〇九条に基づき、被告
   幸福の科学に対しては民法七一五条に基づき、それぞれ右献金相当額の損害、
   慰籍料及び弁護士費用として合計二億六四〇〇万円並びにこれに対する不法
   行為の日の後の日である平成三年七月一日から民法所定の年五パーセントの
   割合による遅延損害金を連帯して支払うことを求める。
 三 被告らの主張
  1 本案前の申立てに関する主張
    本件訴訟は、原告が不法目的ないし主観的害意によって実体的理由がない
   ことを知りつつ、あるいは重大な過失によりこれを知らずに提起した訴えで
   あり、訴権を濫用した不法行為であって、不適法却下を免れない。
    すなわち、原告は被告幸福の科学に対し平成三年五月二三日に三億円の貸
   付けをし、強迫行為によってそのうち二億円を布施することを承諾させられ
   た旨主張するが、右の貸付けは原告個人からではなくC神社からのものであ
   り、原告は実体的権利が存在しないことを知悉しながら敢えて本件訴訟を提
   起したものであり、また、原告主張の不法行為は平成二年一二月から平成三
   年七月までの間に行われたというのであるから、原告の損害賠償請求権はい
   ずれも三年の消滅時効により消滅しているし、更に、原告の主張内容が虚構
   による名誉毀損的言辞に満ちていることや不必要な提訴記者会見を開き意見
   を発表するなど、被告らに対する原告の害意が示されているものであるから、
   本件は訴権濫用に当たる不適法なものとして却下されるべきである。
  2 本案の請求に関する主張
   (一) C神社名義でされた貸付け、献金の主体について
      原告は、C神社名義でされた貸付け、献金は原告が被告幸福の科学に対
     しこれを行ったものであると主張するが、原告主張のとおり原告個人から
     の貸付け、献金であるとするなら、金銭消費貸借契約書、領収書及び振込
     金受取書の当事者名義はC神社ではなく原告個人でなくてはならない。原
     告は右金銭消費貸借契約の主体がC神社であることを代表役員として明確
     な形で認め(乙三四の2)、宗教法人に対する税法上の優遇措置を享受して
     いたのであり、これは実質的にも経済的にも、右契約の当事者がC神社で
     あることを示している。
   (二) 脅迫行為の不存在
      被告Bが同Aと共謀の上原告に対し脅迫行為をした事実はいずれも否認
     する。平成二年一二月から原告が本訴を提起するまでの原告の行動を総合
     勘案すれば、被告Bの脅迫的言辞により原告が合計二億三四〇〇万円もの
     大金を貸し付け、献金又は交付させられたという事実がおよそあり得ない
     ことは明白である。
   (三) 消滅時効
      原告主張の不法行為はいずれも否認する。
      仮に右不法行為が成立するとしても、右不法行為は平成二年一二月から
     平成三年七月までの間に行われたというものであるから、右不法行為の日
     から三年以上経過した平成八年一二月二五日に捏起された本訴に係る損害
     賠償請求権は、民法七二四条によりいずれも時効により消滅している。

第三 当裁判所の判断
 一 被告らの本案前の申立てについて
   被告らは、原告が不法目的ないし主観的害意によって実体的理由がないこと
  を知りつつ、あるいは重大な過失によりこれを知らずに本訴を捏起したのであ
  り、訴権を濫用したものであるから、本訴は不適法であると主張する。しかし
  ながら、原告が不法目的又は主観的害意によって実体的理由がないことを知り
  ながら、又はこれと同視すべき重大な過失に基づいて、本訴を提起した事実を
  認めるに足りる証拠はない。本訴で争われている貸付け、献金の当事者につい
  ては、原告が代表役員になっている宗教法人C神社であるのか又は原告個人で
  あるのかという証拠の評価に係る問題であり、その主体を原告として主張する
  ことが不法の目的又は害意によるものと認めることはできないし、また、消滅
  時効の抗弁があり得る事案において提訴することや、訴訟事件について記者会
  見し、意見を述べることそれ自体が直ちに不法行為を構成するような違法なも
  のということもできない。
   以上によれば、本訴提起を違法と認めることはできず、被告の本案前の申立
  てに係る右主張は理由がない。
 二 本案について
  1 前記前提事実記載のとおり、原告を介して本件金員一ないし三が被告幸福
   の科学に対し交付され献金処理された事実は当事者間に争いがない。
    原告は右各献金を被告らの不法行為によると主張するのであるが、まずそ
   の出捐者が原告であるのかについて疑問がなくはない。しかし、前記認定の
   とおり、原告は右献金に係る資金につき自由に処分する権限を有しており、
   実質的に原告の出捐財産であったと解することもさほど不合理なものとはい
   えないというべきである。
    したがって、被告らの不法行為の成否は、右献金の交付が被告らの違法行
   為によるものであるかどうかに係るものであるから、この点について以下判
   断する。
  2 本件金員一ないし三の交付について
   (一) 原告は、被告Bが同Aと共謀の上、本件金員一について平成二年一二月
     一一日、本件金員二について平成三年一月一〇日ころ及び同年六月下旬こ
     ろ、並びに本件金員三について同年六月末ころ、それぞれ金員の交付をし
     なければ地獄に堕ちるなどの言辞を用いて原告を脅迫し、被告幸福の科学
     に対し右各金員を交付させた旨主張し、これに沿う供述をする(甲一二二、
     一五五、一八二、一九一、原告本人)。
      しかしながら、原告は宗教法人C神社の宮司として同神社を運営管理し
     ていたDを養父にもち、大学卒業後は印刷会社に就職し、その後C神社を
     承継するために神道の神社で修行をした経験も有していた成年男子(昭和
     三六年九月六日生、本件各献金の交付時に二九歳)である上、後記(2)のと
     おり、本件各献金の交付がされた平成二年一二月から平成三年六月までの
     期間中及びその前後において、自らの意思と宗教的感性に基づいて大川の
     教えにのめり込み、被告幸福の科学の会員となって同被告の代表役員であ
     る大川の教えを一層評価、信奉し、原告個人にとどまらず、養父のD、C
     神社及びその関係者を巻き込んで大川の教えを普及させるために会員を勧
     誘したり、自ら同被告の職員にまでなったりしたほか、同被告内における
     自らの地位の上昇を志向して同被告に多額の金員を貸し付けるなど、積極
     的に同被告のために活動を行っていたことや、原告は脅迫の実行者と非難
     する被告Bと個人的にも通常の友好的関係を維持していたものであること
     等の事実が認められるのであるから、同被告の地獄に堕ちる等の言辞に接
     することがあったとしても、原告が主張するような原告の前記一連の金銭
     交付について、同被告による脅迫行為に基づき自由意思を抑圧されて強い
     られた違法なものであると評価することについては合理的な疑問を差し挟
     む余地が多分にあるものといわなければならない。
   (二) すなわち、前記前提事実に加え、証拠(甲八の1ないし3、九の1、2、
     一二二、一五五、一八二、一九一、乙一ないし四、一四、一六ないし一八、
     二〇、二一、二二の4ないし21、二三の1、2、二八、二九の1、2、三
     一、三二の1ないし14、三三、三七、五一ないし五三、七九ないし八三、
     八四の1、2、八五の1にし3、八六の1、2、八七の1ないし5、八九、
     九〇の1、2、一〇一、一〇四ないし一一〇及び被告B)及び弁論の全趣
     旨によれば、原告は、平成元年九月ころ大川の著書を読むうちに、自ら同
     人の教えを正しいと信じ込むようになり、自分の意思で被告幸福の科学へ
     の入会申込みをして平成二年三月一七日付けで会員として登録され、同年
     七月には山梨地区東ブロックのブロック長に任命されるなど地位も上がっ
     たこともあって、同被告のために熱心に伝道活動(会員への勧誘活動等)
     を行うようになったこと、C神社の宮司をしていた原告の養父Dも原告の
     勧誘活動の影響で同年九月三〇日に同被告に正式に入会し、C神社の関係
     者に同被告の宗教活動への協力を呼びかけていたこと、Dが同年一一月に
     死亡し、同年二一月一一日に開催されたC神社の責任役員会において原告
     がC神社の代表役員として選出され、C神社の今後の活動方針として同被
     告の活動を支援していくことが決定されたこと、原告はその親族であるL
     及び原告の養母E(当時九〇歳)が同被告に入会するに当たり、平成三年
     一月一五日付け及び同月二三日付けの各入会申込書の推薦者記入欄にそれ
     ぞれ推薦文を記載したこと、原告は同月には同被告山梨支部東地区の地区
     長に任命され、それ以降ほとんど毎日のように支部事務所に出向いて同被
     告の組織活動に従事したり、他の地域で行われる同被告主催の講演会等に
     参加していたこと、原告は同被告の内部の試験制度である「資格セミナー
     」を受験し、平成三年一月、三月及び五月にそれぞれ初級、中級及び上級
     のセミナーに合格したこと、原告は偶々Dの養子となったことから約一八
     億円にも上る高額の金員を自由に処分できる状況に置かれていたところ、
     被告Bからの要請に基づき、被告幸福の科学に対し同年五月二二日に二億
     円を、同月二三日には三億円をそれぞれC神社の代表役員として同神社名
     義で貸し付けたこと、原告は同年五月ころC神社名義で「御坂町の皆様へ
     のお願い」と題する文書を町民に配布し、同被告の運動への協力を呼びか
     け、月刊「幸福の科学」の購読を勧誘したこと、被告Bは同年六月一日付
     けで東京都杉並区にある被告幸福の科学関東支部に異動になったこと、原
     告は同年六月七日同被告の職員となるための採用面接試験を受け、同年七
     月一日その職員に採用されたこと、その職員採用に伴い同月一七日ころ「
     仏陀様から預からさせていただいた山梨東部支部を日本一、いや世界一輝
     いた地域にしていきたいと思います」「伝導目標を必ず必達させていただ
     きます」という内容を記載した誓約書を作成し、同被告に差し入れたこと、
     原告は信者仲間の私的行事にも熱心であり、平成四年八月一日被告Bの長
     女の結婚式及び結婚披露宴に出席したこと、原告は同年一一月に被告幸福
     の科学山梨支部で開催された「幸福家庭祈願祭」に参加し、右式典におい
     て司会役を務めたこと、原告は、株式会社講談社が発行した週刊現代平成
     三年七月六日号、週刊フライデー同年八月二三日号、同月三〇日号、月刊
     現代同年一〇月号に掲載された同被告や大川に関する記事はいずれも虚偽
     の事実を捏造したものであり、これに対し抗議する意思を有することや、
     これらの記事を読んだC神社の氏子から原告に対し巨額の寄付金を巻き上
     げられるのではないかという問い合わせの電話が相次いだが、これに対し、
     そのようなことは絶対にないと返答したことなどを内容とする平成四年一
     〇月二〇日付けの陳述書を作成し、東京地方裁判所に提出したこと、原告
     は平成六年四月に同被告の東京本部への人事異動を受け、平成七年一月に
     は同被告の総合本部秘書局に異動し、大川の東五反田にある私邸とその近
     くにある事務所で働くようになったこと、ところが原告が同月二〇日それ
     まで同被告に貸し付けていた合計約七億八〇〇〇万円の金員についてその
     全額の返済を求めこれを受領したことを契機とするかのように、原告は被
     告Bら被告幸福の科学関係者らから右返済を求めたことを激しく非難され、
     更に同被告の事務局や広報局に勤務する者から、同年一二月一一日、他の
     宗教団体のスパイであると疑われて追及された上、右の七億八〇〇〇万円
     を同被告に献金するように強く迫られたことなどから、同被告の実体に触
     れた思いとなり、これ以上同被告内にとどまる意思を喪失して退職を決意
     し、そのころ同被告に対し退職願を提出するに至ったこと、しかし、それ
     以前に、被告らに対し本件各金員が被告らの脅迫により交付されたもので
     あると主張してその返還を請求したことはないこと、以上の各事実を認め
     ることができる。
   (三) 以上の原告の経歴、大川の教えへの傾倒から被告幸福の科学への入会、
     同被告内での原告自身の積極的で多様な諸活動、その過程での本件金員一
     ないし三の献金、その退会に至るまでの経緯等を子細に考察すると、右各
     献金行為が被告B及び同Aの共謀に基づく脅迫行為により原告の自由な意
     思を抑圧して強要された違法なものと評価するには足りないものというほ
     かない。
      証拠(甲二一二、一五五、一八二、一九一、乙一〇一、被告B、原告本
     人)及び弁論の全趣旨によれば、被告Bが被告幸福の科学の責任者として
     活動資金集めに腐心し、原告に対しその豊富な資産に着目して熱心にその
     提供を求め、その際に右提供を行うことが地獄に堕ちる等のいわゆる死後
     の不幸を回避するために有益であるなどの言辞を弄したことが窺われない
     ではないが、前記のとおり原告自身最高学府を出て、神道とはいえ宗教に
     身を投じた履歴を有すること、自らの意思と信仰心から被告幸福の科学に
     入信し、信者そして職員として、進んで積極的に様々な宣伝活動に従事し
     たこと、本件各献金はそうした過程で行われたものであること等の事情を
     併せ考えると、被告Bらの言辞が右献金を行う上で何らかの影響を与えた
     としても、右各献金の時点では、原告の自由な意思を抑圧して強要した違
     法なものというには足りないというべきである。
      また、本件各献金に係る金額は一般には例を見ないほどの高額なもので
     あるといえようが、金額の多寡がそれ自体で献金行為の違法性を根拠付け
     るものではなく、原告にとっては本件各献金に当たって格別の金策を要し
     たものではなく、自らの意思で自由に処分できる額のものであったのであ
     り、それを前記のとおり自らの信仰のために自由な意思に基づいて提供し
     たものであるから、被告らの宗教活動自体を違法とすべき事由を見い出せ
     ない以上、右献金の高額さの点のみから、献金を求めた行為を違法と評す
     ることはできない。
  3 本件金員四について
    原告は、本件金員四について、被告Bから平成三年四月二〇日ころ脅迫さ
   れ、その結果、同年五月初めころ四〇〇万円を同人に対し交付したと主張す
   る。
    確かに、原告の供述等には右主張に沿う部分が認められ、更に、証拠(甲
   二二九)によれば、原告名義の預金から、平成三年四月二六日に三〇〇万円、
   同年五月二日に七七万七〇〇〇円の金員がそれぞれ引き出された事実が認め
   られる。しかし、右預金引出しの事実は原告が被告Bに対して四〇〇万円を
   交付したとの事実を直ちに推認させるものであるとは認め難く、また、被告
   Bは右金員交付の事実を明確に否定する旨の供述をしていること、右四〇〇
   万円の交付についてはそれを証明する文書が一切証拠として提出されていな
   いこと等を併せ考えれば、右預金引出しの事実及び原告の供述等のみでは原
   告が被告Bに対し四〇〇万円を交付した事実を認めるには足りないといわざ
   るを得ず、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって、原告が
   被告Bから脅迫されたことにより本件金員四を交付したとの原告の右主張は
   右の点で理由がない。
 三 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告らに対
  する不法行為に基づく請求はいずれも理由がない。
   よって、主文のとおり判決する。

    東京地方裁判所民事第二五部

        裁判長裁判官     藤   村       啓

           裁判官     高   橋       譲

           裁判官     和   波   宏   典