東京地裁平成8年10月4日判決

◇ 東京地裁平成8年10月4日判決 平成6年(ワ)第15223号損害賠償等請求事件

         判       決
    東京都杉並区本天沼三丁目一番一号
          原        告  宗 教 法 人 幸 福 の 科 学
          右代表者代表役員    大   川   隆   法
          右訴訟代理人弁護士   佐   藤   悠   人
          同           安   田   大   信
          同           松   井   妙   子
          同           野   間   自   子
    埼玉県(略)
          被        告  早   川   和   廣
          右訴訟代理人弁護士   小  見  山     繁
          同           河   合       怜

        主       文
   一 被告は、原告に対し、五〇万円及びこれに対する平成六年九月八日から支払
     済みまで年五分の割合による金員を支払え。
   二 原告のその余の請求を棄却する。
   三 訴訟費用は、これを一〇〇分し、その一を被告の、その余を原告の各負担と
     する。
   四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

        事 実 及 び 理 由
第一 請求
 被告は、原告に対し、五〇〇〇万円及びこれに対する平成六年九月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 本件は、宗教法人である原告が、被告の執筆した書籍によって、原告の名誉信用等を毀損されたとして、不法行為に基づいて慰謝料五〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成六年九月八日からの年五分の遅延損害金の支払を請求をしている事案である。
 一 争いのない事実
 1 原告は、大川隆法を代表役員とする宗教法人であり、被告は、株式会社アイペックプレス(以下「アイペックプレス」という。)発行の「ニュースパッケージ・チェイス」シリーズ八九号(平成四年一月二五日発行)に「幸福の科学が消える日」と題する書籍(以下「本件書籍」という。)のうち本文部分を執筆した者である。
 2 本件書籍には、以下のとおりの表題及び見出し並びに記事(これらを一括して「本件記述」ということもある。)が存在する。
 (一)表題及び見出し
 表題「幸福の科学が消える日」
 第三章の見出し「偽装倒産する日」
 エピローグの見出し「いつまでだまし通せるか」
 (二)記事
 (1)「「‥‥ もちろん、会員の中にどんな経歴の人間がいるか、大川さんの指示によって、すべて調べあげてあるのです。T氏が“ゲシュタポ・レポート”なる調査報告書を毎日書いて、それを大川さんに見せるのです。そして、問題があると見られる人物は『コイツを追い出せ』と指示を出し、まず監視をつけられ、突然仕事をホサれたりして、徐々に追い出していくのです」
 こう、古い元会員が語るものこそ、悪名高いBリスト(ブラックリスト)なのである。
 元会員は続ける。
 「八九年半ばから、大川さんは組織を大きくして一旗上げたくなったのでしょう。そのレポートをもとに、大川さんの指示で二人は本部職員として登用されたわけです」」(一九頁)
 (2)「‥‥、幸福の科学には会員の前歴を調べる調査機関があり、‥‥」(二一頁)
 (3)「幹部登用に当たっては、幸福の科学自慢の試験制度は、ほとんど形式的なものでしかないようだ。」(二一頁)
 二 争点
 1 本件記述は、原告の名誉信用を侵害するか。
 2 本件記述は、公共性及び公益目的性があり、かつ、真実性又は真実相当性があるか。
 3 原告の被った損害とその額
 三 争点についての当事者の主張
 1 争点1(名誉信用の棄損の有無)について
 (原告の主張)
 (一)表題及び見出しについて
 (1)見出し「偽装倒産する日」
 偽装倒産ということばは、倒産する必要もないのに倒産し、大衆から集めた金を騙し取るという意味であり、原告が偽装倒産するという不法な目的をもった団体であるという印象を一般読者に対し与える。
 (2)見出し「いつまでだまし通せるか」
 この表現は、原告が現在人を騙していることを前提にした表現であり、原告に対する誹誘中傷に当たる。
 (3)表題「幸福の科学が消える日」
 この表現は、右(1)(2)とあいまって、原告の嘘がばれ、人を騙し通せなくなって、原告が偽装倒産するという誤った印象を一般読者に対し与え、また、「消える」という表現は、原告の存在自体を否定するものであり、原告に対する誹誘中傷である。
 右の見出し及び表題は、具体的な事実の摘示はないが、原告を誹誇中傷する表現であり、これにより、一般読者に対し、原告が偽装倒産するような「危ない宗教団体」であるとの印象を与え、原告の社会的評価及び名誉感情を著しく毀損した。
 (二)記事について
 記事は、会員の前歴を調べる調査機関、「ゲシュタポ・レポート」なる調査報告書、「ブラックリスト」なるリストが原告に存在するという虚偽の事実を摘示することにより、原告がいかがわしい運営がされている団体であるという誤った印象を一般読者に対して与え、原告の名誉信用を著しく毀損した。
 (被告の主張)
 (一)表題及び見出しについて
 本件書籍の表題及び見出しを考案し、これを付したのはアイペックプレスの編集者であり、被告は一切関与していない。したがって、表題及び見出しについては、被告には何ら責任はない。
 (二)記事について
 本件記事には、既に他の週刊誌等において報道された事実が含まれていること、その内容も別段悪意をもって原告を誹謗中傷したものではないことからすれば、本件記事は、原告の名誉を侵害しない。
 2 争点2(公共性・真実性等の有無)について
 (被告の主張)
 (一)公益目的について
 被告は、新興宗教教団についての関心の一環として、原告教団の組織・財政・運営・活動内容等の実態を取材し、これを広く世間に知らせることを目的として、本件記述を執筆したのであるから、専ら公益を図る目的に出たものといえる。
 (二)真実性又は真実相当性について
 (1)真実性について
 本件記述に摘示された事実、すなわち、被告が本件記述を執筆した当時、原告内部において、会員の動向等を原告代表者の大川隆法に報告することを目的として作成された文書が存在し、これが関係者らの間で密かに「ゲシュタポ・レポート」と呼ばれていたこと、原告内部において、原告の会員中要注意と目される人物に関する名簿が存在し、これが関係者らの間では「ブラックリスト」と呼ばれていたこと、及び原告内部において行なわれていた試験制度の実体に形式的と考えられる事実が存在したことは真実である。
 (2)真実相当性について
 ア 講談社発行の週刊誌「週刊現代」の平成三年九月二八日号、同年一〇月二一日号及び文藝春秋社発行の週刊誌「週刊文春」の同年同月一二日号に、前記「ゲシュタポ・レポート」及び「ブラックリスト」に関する記事が掲載されている。
 イ 被告は、本件記述執筆の約一年前から原告に関する資料を収集しており、本件記述執筆にあたっては、講談社の調査員に事実調査の委託を行ない、その週刊誌の記事の内容を裏付けるに足りる調査報告を受けた。また、被告も、自ら原告関係者等に対し電話取材を行なった。
 ウ 被告は、右の週刊誌の記事に掲載された事実及び右イの被告自身の調査結果に基づいて、本件記述の内容を真実であると信じて掲載したのであるから、本件記述に摘示した事実を真実と信じるに足りる相当の理由がある。
 (原告の主張)
 (一)公益目的について
 本件書籍は、原告の教義内容に関する是非、団体組織上の問題点を提示したものではなく、偏見に満ちた一方的な内容であり、公益目的があったとはいい難い。
 (二)真実性又は真実相当性について
 本件記述の内容は、すべて虚偽であり、真実ではない。
 被告は、執筆対象である原告に対し全く直接取材をすることもなく、また、十分な裏付け取材も行なわず、前記週刊誌の記事の内容をそのまま無批判に採用して、本件記述を執筆したにすぎず、本件記述に摘示された事実を信じるに足りる相当の理由はない。
 3 争点3(損害とその額)について
 (原告の主張)
 本件書籍は、全体として原告、大川隆法及び原告の多数の会員の信仰を一貫して揶揄し、虚偽の事実を多数摘示し、原告の名誉信用を著しく毀損したものであり、損害額は五〇〇〇万円を下らない。
第三 争点に対する判断
 一 争点1(名誉信用の棄損の有無)について
 1(一)表題「幸福の科学が消える日」、第三章の見出し「偽装倒産する日」について
 本件書籍の表題である「幸福の科学が消える日」は、文言上、原告の組織が将来訪れる日に社会的に消滅することを指称するが、それ自体としては具体的な事実の摘示を含まないことは明らかである。確かに、原告が公刊される書籍の表題で原告の組織自体について将来的に否定する評価を受けることは、原告の構成員に対し甚大な精神的苦痛を与えるものであることは想像に難くない。そこで、宗教団体に対する右のような事実の摘示を伴わない否定的な評価の表現が名誉棄損に当たるか否かについて、検討する。
 宗教団体及びその構成員は、その性質上、程度の差こそあれ、自らの教義及びこれに基づく活動を正当視し、その教義を信じ、その活動に身を投ずる者こそ幸いであるとする反面、ときには、他の宗教団体の教義及び活動を不正視し、自己と異なった宗教を信ずる者は不幸であるとすることがあるが、これを反対の立場からみれば、外部の者にとっては、自己の宗教上又は非宗教上の信条が正当であり、その宗教団体の教義及び活動は不正なものであり、その宗教団体の教義を信じ、その活動に身を投ずる者は不幸であると観念することもあり得るのである。特に、マスメディアに携わる者は、そのような信者を被害者扱いし、これを救済しようとして、その宗教団体の実態を広く世間に明らかにしようとすることもある。
 宗教団体といえども、広い意味での世俗社会に所属する一員であり、ひとり無菌・無批判状態にあることを求めることは許されず、メディアから批判を受けたときは、批判そのものを排斥しようとしたり、単に教義の正当性を強調したりするのではなく、批判の的にされた、たとえば、組織運営の実態、活動や財務の実態等を明らかにして、その批判に対処し、これを克服すべきものである。その宗教団体は、その批判を理解するにあたっては、自らも世俗社会の一員であることに思いをいたし、宗教団体の対内的・対外的な活動がいかに真摯なものであっても、外部の者にとっては、ときには奇異な現象と映り、とうてい受け容れ難いものと感ずることのあることを心得るべきである。特に、宗教団体が組織的に急速に拡大し、宗教活動が活発になればなるほど、外部の者の否定的な評価・活動も活発になるのは自然の成り行きである。急成長を遂げる宗教団体と外部の者、特に、マスメディアとの言論による対立は、避け難いものであり、言論による批判は、それが民主的なルールに従って行われる限り、宗教団体がその健全な発展を図り、民主的な組織運営を行い、その対内的・対外的な活動が社会との不幸な衝突を避けるためには、排斥すべきものではなく、忍受すべきものである。一切の言論による批判を封じようとすることがいかに愚かしく危険であるかは、歴史の繰り返し教えるところである。
 したがって、外部の者が、特定の宗教団体の公に報道された活動状況に基づいて、その宗教団体に対し、教義、教祖、あるいは活動の不当性を指摘して、たとえば、「崩壊する」、「消滅する運命にある」などと否定的な評価・活動をしたとしても、それだけでは、その宗教団体は、その否定的な評価・活動自体を違法なものとして、法的な手段をもって、排斥を求めることはできないものというべきである。
 しかしながら、その外部の者の否定的な評価が虚偽の具体的な事実の摘示をし、又は虚偽の具体的な事実を前提にされたものであるときは、宗教団体も、法的な人格を有する以上、一定の要件のもとに、その排斥や損害賠償請求等が肯認されるべきことも、当然の事理である。
 そうであってみれば、本件書籍の表題「幸福の科学が消える日」といった原告に対する否定的な評価を示した表現は、それ自体としては独立しては違法なものということはできない(後述する具体的な事実の摘示を伴った名誉棄損行為とあいまって違法性の程度の判断の資料とされるのは別問題である。)。
 これに対し、見出しの「偽装倒産する日」については、原告が真実は倒産しないのに現に偽装行為をしていて、将来仮装の倒産をするという意味と解さざるを得ないから、具体的な事実を前提にしない限りできない評価であるいうべきであり、一般読者に対し、原告が現に何らかの偽装行為をしており、偽装倒産を図ろうとしているとの誤った印象を与えるもので、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉信用を毀損したものというべきである。
 (二)エピローグの見出し「いつまでだまし通せるか」について
 宗教団体がその信者にその教義を信じさせ、その宗教上真理とされるものの受容を強く求め、ときには批判を許さないその行為は、その宗教を信じない外部の者には、信じさせようとしている教義は信ずるに値する実体を有しないものであり、真理として説かれているものは真理ではないものであり、決して信じてはならないものと映ることになるのであるから、宗教団体のそのような活動を「だます行為」と評価してもやむを得ないものというべきである(社会儀礼上その表現に意を用いるべきであろうが、表現の点は、特段の事情がない限り、違法性の問題ではない。)。本件書籍の「いつまでだまし通せるか」との見出しのもとに書かれたエピローグの記事部分も、具体的な虚偽の事実を含んでおらず、原告ないし大川隆法について一般に明らかにされている宗教活動とこれに対する批判的な論評をしているにとどまるから、その見出し「いつまでだまし通せるか」の表現は、原告の名誉信用を棄損する違法な行為ということはできない。
 (三)記事について
本件記事は、「ゲシュタポ・レポート」、「ブラックリスト」、「会員の前歴を調べる調査機関」の存在を挙げ、「そのレポートをもとに、大川さんの指示で二人は本部職員として登用された」、「T氏が“ゲシュタポ・レポート”なる調査報告書を毎日書いて、それを大川さんに見せるのです。そして、問題があると見られる人物は『コイツを追い出せ』と指示を出し、まず監視をつけられ、突然仕事をホサれたりして、徐々に追い出していく」、「幹部登用に当たっては、幸福の科学自慢の試験制度は、ほとんど形式的なものでしかない」など原告の職員、幹部の登用状況等を摘示した内容となっている本件記事の内容は、「ブラックリスト」「ゲシュタポ・レポート」という比喩的表現が用いられていることもあいまって、一般読者に対し、原告には各会員の前歴等を調査する特別な機関及び報告書が存在し、恣意的かつ統制的な職員の登用がされているとの印象を与えるもので、原告の社会的評価を低下させ原告の名誉を毀損するものというべきである。
 2(一)この点について、被告は、本件記事の内容は、本件記事が掲載される以前に他の週刊誌等において報道された事実が含まれており、本件記事に摘示された事実により、新たに原告の社会的評価が低下することはない旨主張する。
 確かに、甲一、乙一ないし三、及び被告本人尋問の結果によれば、本件記事の内容のうち、「ゲシュタポ・レポート」及び「ブラックリスト」に関する部分は他の週刊誌の記事に掲載された内容とおおむね重複する内容であることが認められる。しかし、たとえ他の週刊誌の記事により既に原告の名誉が侵害されていたとしても、その週刊誌と本件書籍とは、執筆者、発売日、購買層等を異にするものであるから、本件記事に摘示された事実によって、低下した程度はかなり小さいものであるにせよ、原告の社会的評価か新たに低下したことは明らかである。したがって、この点に関する被告の主張は採用することができない。
 (二)また、被告は、見出しは被告が付したものではなく、アイペックプレスの編集者が付したものであり、被告には責任がないと主張する。
 しかし、甲一及び被告本人尋問の結果によれば、見出しは、本件書籍の本文中の表現を引用したものであり、被告自身見出しに特にクレームをつけたことはなく、その表現についても自分の意図と違わないと供述していることからすれば、見出しをアイペックプレスの編集者がつけたものであるとしても、被告は、本件書籍の本文部分のみならず見出しについても、筆者としての責任は免れないものというべきである。
 二 争点2(公益目的性・真実性等の有無)について
 1 公共性
 本件記述に摘示された事実は、本件記述の掲載当時、社会的に注目され、マスコミで大きく取り上げられていた宗教法人である原告の組織及び運営に関する事実であり、公共の利害に関するものというべきである(公共の利害に当たることについては当事者間に争いはない。)。
 2 公益目的性
 そして、本件記述は、原告の組織及び運営の実態を公にし、そのあり方を批判する内容であると認めることができ、専ら公益を図る目的で掲載されたものというべきである。
 この点について、原告は、偏見に満ちた一方的な内容であり、公益目的があったとはとうていいい難いと主張するが、被告が原告に対し偏見に満ちていたことを認めるに足りる証拠はない
 3 真実性
 (一)甲三ないし五、甲九、乙一ないし四、五の二ないし乙八の二、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
 (1)原告設立登記前の昭和六二年当時、原告に活動推進委員会という組織があり、原告会員の動向を大川隆法に報告する活動推進委員報告という報告書が存在した。
 (2)週刊現代の編集部が入手した活動推進委員報告の中に、「Bリスト」という記載か掲載されたものが存する。
 (3)被告は、平成三年九月一三日、電話取材により、原告内部の試験制度の実態に関する取材メモ(乙八の一)を作成した。
 (二)しかし、右活動推進委員報告が、陰で「ゲシュタポ・レポート」と呼ばれていたこと、右報告がもとで大川隆法の指示により監視をつけられ、仕事を辞めさせられたものが存在すること、右「Bリスト」が「ブラックリスト」と呼ばれており、原告の会員中要注意人物の名簿であることについては、これにそう乙四、五の二及び五の三という証拠も存するが、これに反する甲五に照らせば、たやすく信用することができず、他に右事実を真実であると認めるに足りる証拠はない。
 また、原告内部の試験制度の実態に形式的と考えられる事実があったとする点についても、右主張にそう被告作成に係る取材メモの取材対象が全く明らかにされていないばかりか、被告は単に電話で取材したとするのみで何らの裏付けもとられていないことからすれば、これを信用することはできず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。
 4 真実相当性
 (一)乙一ないし三、乙六ないし八の二及び被告本人尋問の結果によれば、被告が本件記述に摘示された事実を取材した経緯について、以下の事実を認めることができる。
 (1)被告は、平成二年一一月ないし一二月ころから原告について関心をもつようになり、平成三年八月に講談社発行の「フライデー」の連載記事を執筆するようになってから、原告に関する取材を始めた。
 (2)被告は、本件週刊誌の記事を参考資料として本件記述を執筆した。
 (3)被告は、フライデー編集部から、「Bリスト」という記載がある文書(乙六)及び「『ゲシュタポ・レポート』なる人物評定を書いて大川にみせるんです。そして大川が問題があるとみられる人物は『コイツを追い出せ』と指示するんです」との記載がある平成三年九月一六日付のファックス(乙七)を受け取り、右週刊誌の各記事の内容か裏付けられていると考えた。
 (4)被告は、平成三年九月一三日、電話取材により、原告内部の試験制度の実態に関する取材メモ(乙八の一)を作成した。
 (三)被告は、〈1〉右(一)で認定した事実、〈2〉約一〇人との面接取材、〈3〉約三〇件の電話取材、〈4〉平成三年八月以降収集した資料に基づいて、本件記述に摘示された事実を真実であると信じたと主張する。
しかし、右〈2〉ないし〈4〉の事実を裏付けるに足りる証拠(取材メモ等)が全く提出されていないこと、〈2〉ないし〈4〉の事実に関する被告の供述内容は曖昧で具体性に欠ける上、取材対象が全く明らかにされていないことなどからすれば、右供述を信用することはできない。他方、被告は原告に対する取材を全く行なっておらず、単に、右週刊誌に掲載された記事及びフライデー編集部から受け取った文書の記載内容に基づいて、本件記述に摘示された事実を真実であると信じたにすぎないということができる。
 したがって、本件記述に摘示された事実を真実と信じたことに相当性があるとする被告の主張は採用することができない。
 三 争点3(損害とその額)について
 本件記述の掲載によって原告の受けた損害の額について検討するに、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によって認められる本件書籍の発行部数、読者の範囲、及び本件に顕れた一切の事情を総合すると、原告の右損害を補填するための金額としては五〇万円が相当である。
 四 結論
 以上のとおり、原告の請求は、慰謝料五〇万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成六年九月八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。

  東 京 地 方 裁 判 所 民 事 第 二 三 部

        裁 判 長 裁 判 官   塚   原   朋   一

            裁 判 官   大   熊   良   臣

            裁 判 官   澤   田   忠   之