◇ 福岡高裁平成6年9月16日判決 平成5年第(ネ)第269号損害賠償請求事件

 控訴人 X 〈外二九九名〉
 右三〇〇名訴訟代理人弁護士 佐藤悠人 安田信彦 古川靖
 被控訴人 株式会社講談社
 右代表者代表取締役 野間佐和子
 被控訴人 野間佐和子 元木昌彦 森岩弘 佐々木良輔 早川和廣 島田裕巳
 右七名訴訟代理人弁護士 河上和雄 山崎恵 的場徹 成田茂

   主  文

 本件控訴をいずれも棄却する。
 控訴費用は控訴人らの負担とする。

   事実及び理由

 第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人ら
 1 原判決を取り消す。
 2 被控訴人らは連帯して、控訴人ら各自に対し、一〇〇万円及びこれに対する被控訴人株式会社講談社、同野間佐和子、同元木昌彦、同森岩弘、同佐々木良輔及び同早川和廣については平成三年一〇月二四日から、被控訴人島田裕巳については同年一一月二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
 4 仮執行宣言
 二 被控訴人ら
 主文同旨。なお、原審においては、本案前の答弁がある。
 第二 当事者の主張
 一 請求原因
 1 当事者
 (一) 控訴人らは、「地上に降りたる仏陀(釈迦大如来)の説かれる教え、即ち、正しき心の探究、人生の目的と使命の認識、多次元宇宙観の獲得、真実なる歴史観の認識という教えに絶対的に帰依し、他の高級諸神霊、大宇宙神霊への崇敬の気持ちを持ち、恒久ユートピアを建設すること」を目的とする宗教法人幸福の科学の正会員であり、幸福の科学の代表役員である大川隆法主宰を信仰の対象としている。
 (二) 被控訴人株式会社講談社は、雑誌及び書籍の出版等を目的とする株式会社であり、週刊誌「フライデー」、「週刊現代」、月刊誌「月刊現代」等を発行している。
 また、「日刊ゲンダイ」を発行する株式会社日刊現代及び「スコラ」を発行する株式会社スコラは被控訴人講談社がほぼ全額ないしは全額を出資している同被控訴人会社の子会社である。
 (三) 被控訴人野間佐和子は被控訴人講談社の代表取締役である。
 (四) 被控訴人元木昌彦はフライデーの編集者、同森岩弘は週刊現代の編集者、同佐々木良輔は月刊現代の編集者であり、いずれも被控訴人講談社の従業員である。
 (五) 被控訴人早川和廣は別紙「被控訴人講談社による幸福の科学関連記事の見出しと新聞広告の見出し一覧表」記載の各記事(以下、同表に付した記事番号に従い、例えば「本件記事1」というように表示する。)のうちフライデーの一連の記事(本件記事13、14、15、17、21、23、25、28)の執筆者である。
 同島田裕巳は日本女子大学文学部史学科助教授であり、月刊現代の一連の記事(本件記事12、16、26、33)及び本件記事35の週刊現代の記事の執筆者ないし対談者である。
 2 被控訴人らの共同不法行為
 (一) 被控訴人らは、共謀の上、本件各記事を別紙「被控訴人講談社による幸福の科学関連記事の見出しと新聞広告の見出し一覧表」の記載のとおり、フライデー、週刊現代、月刊現代、日刊ゲンダイ及びスコラに掲載した。
 仮に、共謀の事実が認められないとしても、被控訴人らには次のとおり不法行為責任があるものであり、これらは客観的関連共同の関係にあるから各自全部につき共同不法行為責任を負うこととなる。
 (1) 被控訴人早川は本件記事13、14、15、17、21、23、25、28の執筆者であり、同島田は本件記事12、16、26、33、35の対談者ないしは執筆者であるところ、両名は、幸福の科学及びその代表役員である大川主宰についての記事を執筆するに際しては、単に幸福の科学及び大川主宰のみならず、その教えに帰依する幸福の科学の会員の法的利益を侵害することのないように注意すべき義務があるのに、後記
(二)のとおり、幸福の科学及び大川主宰に関する事実を捏造した誹謗中傷記事を執筆してフライデー及び月刊現代等に掲載させることにより控訴人らの権利を侵害したものであるから、その行為は民法七〇九条の不法行為に該当する。
 (2) 被控訴人元木、同森岩、同佐々木は、雑誌編集者として、ある記事を掲載するについて、当該記事の内容が適切であるか否かを判断し、他者の権利を侵害することのないように注意すべき義務があるのに、後記(二)のとおり、幸福の科学及び大川主宰に関する事実を捏造した誹謗中傷記事を各々の雑誌に掲載(被控訴人元木については本件記事3、9、10、13、14、15、17、19、21、23、25、28、34をフライデーに、同森岩については本件記事2、4、11、18、20、22、24、27、29、30、32、35を週刊現代に、同佐々木については本件記事8、12、16、26、33を月刊現代に各掲載)し、販売させたものであるから、同被控訴人らの右行為は民法七〇九条の不法行為に該当する。
 (3) 被控訴人講談社は雑誌の出版販売を業とするものとして、およそ他人の権利を侵害するような記事内容の掲載された雑誌を出版販売しないようにすべき義務があるのに、後記(二)のとおり、幸福の科学及び大川主宰に関する事実を捏造した誹謗中傷記事が掲載された雑誌を出版し、全国の書店、販売店などで多数販売し、もって公然と頒布したものであるから、その行為は民法七〇九条の不法行為に該当する。
 また、同被控訴人会社は、被控訴人元木、同森岩、同佐々木の使用者として民法七一五条の責任も免れない。
 (4) 被控訴人野間は、「連続追及」「徹底追及」などの見出しで、幸福の科学を中傷する記事を掲載しているフライデー、週刊現代、月刊現代が出版販売されていることを知悉しており、右出版販売行為は控訴人らをはじめとする多数の幸福の科学の会員の権利を侵害するものであるから、それが反復継続して行なわれている場合、被控訴人講談社の代表者として右のような不法な出版販売行為を中止する措置を講ずべき法的義務があるのに、被控訴人野間はこれを放置し、何ら適正な措置を講じなかったものである。したがって、同被控訴人にも右の不作為による民法七〇九条の不法行為責任がある。
 (二) 本件各記事は、いずれも幸福の科学及び大川主宰を誹謗中傷する違法なものであるが、以下にその主要なものについて個別に列記する。
 (1) 本件記事1は、一連の誹謗中傷記事の皮切りとなったものであり、幸福の科学の成長を「増殖」と呼び「マルチ商法ばり」「なにうまいことやっとんね」「マルチのような増殖ぶり」などと、違法なマルチ商法のイメージを植えつけようとする記述に終始している。
 本件記事2は、見出しに「問題摘出レポート」「ファジーな商法」(同誌の表紙コピーでは、さらに悪質な「上手い商法」という表現になっている。)などと掲げ、また、いかにも幸福の科学が社会問題を起こしている宗教団体であるかのような内容になっている。
 本件記事3は、見出しにおいて大川主宰を「謎の教祖」とし、内容においても大川主宰の講演内容をねじ曲げたり、インタビューの体裁をとったりしながら大川主宰及び幸福の科学を誹謗中傷するものとなっている。
 本件記事4は、見出しに「内幕摘出レポート」「三〇〇〇億円集金をブチ上げた」大川主宰の「大野望」、「号令」などと記載した上、内容的にも、入会して三年になるある「中堅会員」が声をひそめて語ったところとして、「宗教法人として認可(今年3月7日)されてから、おカネの動きが激しくなりました。この前、(東京・千代田区)紀尾井町ビルの本部で、ちょうどミカン箱くらいの段ボールが数個運び込まれているところに居合わせたんです。経理の人に『あれはコレですか』って現金のサインを指でつくったら、その人は口に指を当てて“シー”というポーズをした後、『そうだよ。でも、他の人に言ってはダメだよ』といいました」という話(以下「現金搬入記事」という。)を紹介した上で、「ついに、あの幸福の科学が、巨額の資金集めを始めたというのだ」としたり、「最近は『カネのある社長族を落とせ』『集金マシーンになるトップセールスマンや創価学会の幹部を入会させろ』と支部長が檄をとばす」「創価学会のマネをして政界へ進出する気」「大川氏は元首相や閣僚経験者とも太いパイプがあるんだと自慢していた」などという捏造をして、幸福の科学ないし大川主宰がカネを集めて政界進出を果たそうとしているとの虚構に無理に結び付けようとしたものである。また、同記事中には「もともとこの教祖はなかなか自己顕示欲が強く、プライドも高いのは確か」などと大川主宰に対する人物評をし、これに関連して、平成三年六月一六日に広島で行われた講演会で、大川主宰が「最近、会員のなかに霊がわかるという人がでてきたようだが、皆、そんな人に惑わされないように。もともと、その霊能力も私が授けたものなんだから」と語った(以下「広島講演記事」という。)などという虚偽の事実を掲げた上で、「自分以外のものが勝手なことをしたり、注目を集めるのが許せないんです」という元会員談を紹介したりしている部分もある。
 本件記事5は、「バブル」「大化け」などという否定的表現の見出しとともに、「某都銀からそれ(ミラクル三千億円構想)に要する三千億円の融資を取り付けた」(関係者)という声まである。」などという虚偽の事実を紛れ込ませたものである。
 本件記事6は、「宗教の調理師」「マルチ作戦」などの見出し中の表現とともに、内容的にも、「大川氏は宗教、学問、仕事、恋愛の四重のコンプレックスを抱え、それをバネに宗教家として出発している」「大川氏がいま力を注いでいるのは、『正会員一人が十人の誌友会員をつくれ』とシャカリキになっての会員集め。そして三千億円の浄財を集めて、七十七階建ての本部ビルや各地の施設の拡充だ。これでは『本当は何をしようとしているのか』と疑問を持たれても仕方あるまい。」などと、幸福の科学と大川主宰に対する悪意に満ちたものである。
 本件記事7は、見出しに「ファジーな宗教」「(大川主宰の)著書も中身が幼稚」などとした上で、これに沿うようなインタビューの引用をし、また、被控訴人早川の「効き目もなく副作用もない薬のような、若者受けするファジーな宗教」というコメントや、「幸福の科学の拡大の仕方はネズミ講と同じ」という同島田のコメントを付した悪質なものである。
 本件記事8は、幸福の科学の成長を「異常増殖」と評価し、大川主宰を「心のバブル時代の問題教祖」と呼ぶなど、幸福の科学を「危険な教団」であると一方的に決めつけたものである。なお、同記事により被控訴人講談社の主要雑誌メディアがそろって幸福の科学叩きに参入したことになる。
 本件記事11は、平成三年七月に東京ドームで行なわれた「御生誕祭」の総費用が六〇億円であったとか、それ故に各支部で億単位の金銭が集められ、チケット販売や寄付のノルマが課せられたなどという虚偽の事実を報じたものである。
 (2) 本件記事13、14、15、17、21、23、25、28は、被控訴人早川の執筆になる「連続追及」記事であり、これ以後被控訴人らの幸福の科学に対する誹謗中傷が格段に激しくなる。
 本件記事13は、見出し中に「急膨張するバブル教団」「大川隆法の野望」(なお、表紙の見出しは「仮面の下の野望」というものである。)などと記載した上、大川主宰が「神である」と述べているとか、かつてノイローゼになったことがある(以下「ノイローゼ記事」という。)などという悪質な捏造に満ちたものである。
 本件記事17は、このころ幸福の科学の会員達から被控訴人会社講談社などに対し様々な方法で抗議行動がなされていたことについて、虚偽の事実を挙げて大川主宰の指示のもとに幸福の科学が組織したものであるかの如く報じたものである。
 本件記事23、25は、幸福の科学が手段を選ばず、金集めと人集め(会員獲得)に狂奔しているかの如くに描き出したものである。
 (3) 本件記事12、16、26、33、35は、被控訴人島田が、いずれも「日本女子大学助教授」「宗教学者」の肩書で対談し或いは執筆したものであるが、学者としての正当な論評などといえるものではなく、幸福の科学と大川主宰に対する誹謗中傷記事以外の何物でもない。
 本件記事16は、同12の山田太一との対談における同被控訴人の独断と偏見に満ちた発言をさらにふくらませて、一つの論稿にまとめたものであるが、「幸福の科学の教えは、単なる古今東西の宗教の寄せ集めにしかすぎない」「幸福の科学はまさに『バブル宗教』である。その目的は、組織を拡大することにしかない」「日本人のダメさの象徴が幸福の科学なのかもしれないのだ。幸福の科学の正体は日本人の正体でもある」などと決めつけ「大川隆法の『正体』は、せいぜい落ちこぼれのエリートでしかないのだ」「平凡なエリートの落ちこぼれと宗教好きの父親という組合せが幸福の科学の正体である」などと、幸福の科学と大川主宰を誹謗中傷している。
 本件記事26も、同被控訴人が、何らの前提事実なしに或いは誤った前提に基づいて同被控訴人の独断的結論を書き連ねたものにすぎない。
 (4) 本件記事18、20、22、24、27、29、30、32は、週刊現代による一連の「徹底追及」記事である。
 本件記事18は、幸福の科学の会員達からの抗議行動についていかにも事実であるかの如き具体的事例を列挙し、これが幸福の科学の組織的行動であるかのように描き出すとともに、元会員のコメントなる虚偽の事実を列記するなどしたものである。
 本件記事20は、リード部分に「悪質なデマ・中傷とイヤガラセを繰り返す問題教団」「九月二日から様々な業務妨害をした会員たち」と記載しているほか、「ゲシュタポ・レポートとは」という小見出しのもとに、幸福の科学の草創期から携わっていた元役員の話として、「(大川主宰は)教団の運営はごく限られた腹心たちと決めていました。会員の動向は、その腹心たちから毎日上がってくる『業務報告』で把握していました。ただ、この報告が問題。ここで悪くいわれた人はすぐ教団を追い出されました。みんな、この報告のことを陰でゲシュタポ・レポートと呼んでいました」(以下「ゲシュタポ・レポート記事」という。)などと、あたかも幸福の科学がゲシュタポの暗躍するナチス・ドイツと同様に、腹心に悪くいわれればすぐに追い出されるような狂信的団体であるかの如き捏造をした上で、「当初からこの教団は問題教団になる危険性をはらんでいたのである」などと断じている。また、会員たちの抗議行動に関連して、幸福の科学の会員から内部告発として送られてきたという「内部資料」なるものが紹介されているが、そのような「内部資料」はありもしないのである。さらに、同記事は、一〇人くらいの側近を引き連れた大川主宰がある画家から観音様の絵を五〇万円で買った上、銀座の高級クラブで一緒に酒を飲んだという話(以下「銀座高級クラブ遊興記事」という。)を紹介しているが、これもまた事実無根である。
 本件記事24は、幸福の科学が名誉毀損に基づく名誉回復並びに損害賠償請求の訴えを東京地裁に提起したことに対する反論の形で、前記ゲシュタポ・レポート記事や銀座高級クラブ遊興記事について再掲したほか、幸福の科学の伝道活動などに対する誹謗を繰り返したものである。
 (三) 加えて、本件各記事のタイトルは、場合によっては記事本体の見出しよりも悪質な表現にされて、電車の中吊り広告や複数の全国紙を中心とする新聞広告として、毎週一千万をはるかに越える広告が世間にばらまき続けられた。
 (四) このように、被控訴人らは、平成三年五月九日から同四年五月二五日までのほぼ一年間に三五本(本件記事35を除けば、ほぼ半年の間に三四本)という大量の、しかも悪質な捏造に満ちた幸福の科学と大川主宰に対する誹謗中傷記事を反復して掲載し、また、その広告をしたものであり、右のような明白な捏造記事の異常な多さ、全ての記事を貫く誹謗中傷の程度のひどさ、そして明白かつ積極的な反復継続の姿勢からみて、被控訴人らの一連の行為は、幸福の科学と大川主宰に対する強い悪意に基づくものといわなければならず、まさに言論の暴力というべきものである。
 3 控訴人らは、被控訴人らの右不法行為(言論の暴力)により次のとおり損害を被った。
 (一) 控訴人らの宗教上の人格権が侵害されたことによる精神的損害
 右にいう宗教上の人格権とは「自らが帰依する宗教団体及びその信仰の対象たる御本尊を行き過ぎた誹謗中傷の言論で傷つけられて、心の静穏を乱されることのない利益」であるが、本件の控訴人らの場合にその内容を類型化すると次のようになる。
 (1) 信仰を奪われかけた被害
 本件の一連の記事により、大川主宰と幸福の科学がいかがわしい存在であり、金銭面で不正を働いているあくどい団体であるかのような疑念にとらわれ、自分自身の信仰に疑いをもってしまった。これによる控訴人らの苦しみはまさに筆舌に尽くし難いものである。
 (2) 記事の内容そのものによる被害
 本件の一連の記事により、信仰のよりどころである大川主宰に泥を塗り続けられ、また、自らが所属する幸福の科学がまるでいかがわしい宗教団体であるかのようにいい続けられたことにより、控訴人ら自身が深く心を傷つけられたものである。信仰者にとって、信仰の中枢である御本尊が傷つけられるのは自らが傷つけられる以上の事態ともいえるのである。
 (3) 捏造記事を信じ込まされた家族や友人・知人からの被害、それらの人との人間関係の破綻による被害
 (4) 伝道活動が阻害されたことによる被害
 本件の一連の記事により控訴人らの伝道活動には著しい障害が生じた。控訴人らが幸福の科学会員に導いていた人の中には本件各記事が原因で退会した人も多い。
 (5) 捏造記事による誤解に基づく差別的取扱いによる被害
 幸福の科学の職員であることを理由に不動産物件の賃借を断られたという類の被害である。
 (6) 捏造記事による誤解に基づく信用・売上低下による被害
 幸福の科学の会員であることを前面に掲げて客商売をしていたところ、幸福の科学と大川主宰に対する悪評の流布とともに、店の信用低下、売上げの大幅な減少をきたし、これにより精神的損害を被ったものである。
 そのような具体例としては、整骨院を経営している控訴人A、割烹料理店を経営していた控訴人B、学習塾を経営していた控訴人C、喫茶店を経営している控訴人D、新聞の販売拡張員をしている控訴人E、建設業をしている控訴人F、保険代理店を経営していた控訴人G、保険のセールスをしている控訴人H、スナックを夫婦で経営している控訴人I、美容院を経営している控訴人J、夫が経営する会社の化粧品販売部門を担当している控訴人K、ピアノ教室を経営している控訴人L、歯科医院を経営している控訴人M、日本舞踊教室を開いている控訴人N、クリーニング店を経営している控訴人O、婚礼衣装のレンタル・販売会社を経営している控訴人P、美容院を経営している控訴人Q、ラーメン店を経営している控訴人R、焼き物の製造販売をしている控訴人Sがある。
 (二) 控訴人ら自身の名誉権の侵害による精神的損害
 (三) 控訴人らの伝道の自由の侵害による精神的損害
 (四) 控訴人らの被った財産的損害
 前記(一)の(6)の控訴人らのうち、現実に財産的損害の損害額が算定可能で、かつその額が五〇万円を超える以下の控訴人らについては、精神的損害とは別に、五〇万円の限度で財産的損害を請求する。
 (1) 控訴人Bは本件各記事を信じた他の役員から取引銀行等に対してイメージが悪いとして平成四年二月に役員を解任されてしまった。そのため得られなかった役員報酬一二か月分約七二〇万円のうちの一部である五〇万円を財産的損害として請求する。
 (2) 控訴人Dは喫茶店の減収分約二五四万円(以前は月額最低一一〇万円はあった売上げが平成三年八月以降は目立って減少した。その平成四年五月までの合計額)の一部である五〇万円を財産的損害として請求する。
 (3) 控訴人Fは建設業の平成三年度の減収分三〇〇〇万円のうちの一部である五〇万円を財産的損害として請求する。
 (4) 控訴人Iについては、その経営にかかるスナックの従来の売上げは月額二〇〇万円以上あったのに、平成三年八月以降目立って減少した。同年内の売上減少額の合計は二八七万円となるから、その一部である五〇万円を財産的損害として請求する。
 (5) 控訴人Jについては、その経営する美容院は一日平均一〇ないし一三人の客があり、月平均売上げは約七五万円であったが、平成三年八月以降は客が一日平均五、六人に半減し、同年内の売上減少額の合計は一〇八万円に達した。そのうちの五〇万円を財産的損害として請求する。
 (6) 控訴人Mの歯科医院は月平均五〇〇人位の患者数があったのに、平成三年九月以降同年内の診療収入の減少は合計一五〇万円を下回ることはない。同控訴人はそのうちの一部である五〇万円を財産的損害として請求する。
 (7) 控訴人Qについては、その経営にかかる美容院の売上げを前年同月比で見ると、平成三年八月以降同年内の売上減少額の合計は約八三万円に達する。そのうちの一部である五〇万円を財産的損害として請求する。
 (8) 控訴人Rの経営にかかるラーメン店の売上は月額二四〇万円以上はあったのに、平成三年八月から急減してしまった。同月以降同年内の減少額の合計は一八六万円に達している。同控訴人はそのうちの一部である五〇万円を財産的損害として請求する。
 (五) 控訴人らの前記損害は各自一〇〇万円を下回ることはない(なお、前記(四)掲記の控訴人らについては、うち五〇万円は財産的損害である。)。
 4 よって、控訴人らは、被控訴人らに対し、被控訴人らが連帯して控訴人ら各自に対し一〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日(被控訴人島田については平成三年一一月二日、その余の被控訴人らについては同年一〇月二四日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
 二 控訴人らが、原審において主張した、本案前の答弁の理由は、原判決四枚目表八行目から五枚目表六行目のとおりであるから、これを引用する。
 三 請求原因に対する被控訴人らの認否(弁論の全趣旨によるものを含む。)
 1 請求原因1について
 (一) 同(一)のうち、幸福の科学が宗教法人であること、大川主宰こと中川隆が幸福の科学の代表役員であることは認めるが、その余は知らない。
 (二) 同(二)の前段部分及び後段部分のうち株式会社日刊現代が「日刊ゲンダイ」を、株式会社スコラが「スコラ」を発行していることは認める。
 (三) 同(三)ないし(五)は認める。ただし、同(五)の本件各記事の各タイトル及び見出しは、当該掲載誌の編集部が考案して掲載したものである。
 2 請求原因2について
 (一) 同(一)の(1)のうち、本件各記事が別紙一覧表記載のとおり、フライデーその他の各誌に掲載されたことは認めるが、共謀の事実は否認する。
 同(2)ないし(4)は否認ないし争う。なお、付言すれば、フライデー、週刊現代、月刊現代に掲載する記事の内容については各編集部の責任において決定されており、被控訴人講談社及び被控訴人野間がその掲載に関与することは一切ない。
 (二) 同(二)のうち、本件記事に控訴人ら主張のとおりの見出しやタイトルが付されていること、記事の内容中に控訴人ら指摘のような記載部分があることは認めるが、その趣旨やニュアンスについての控訴人らの主張は争う。
 なお、同(二)の(3)の記事は、被控訴人島田がその専門的立場から宗教団体である幸福の科学の問題点を学問的に批判した論文であり、その記載はすべて同被控訴人の学識に裏付けられた公正な批評(論評)にほかならない。
 (三) 同(三)のうち、本件記事の広告が電車の中吊り広告や新聞広告に掲載されたことは認める。
 (四) 同(四)は争う。
 3 請求原因3について
 すべて争う
 第三 当裁判所の判断
 一 被控訴人らが原審で申し立てた本案前の答弁に対する判断は、原判決八枚目裏一〇行目から九枚目裏三行目までに説示されているとおりであるから、これを引用する。
 二 争いのない事実など
 請求原因1については、(一)のうち、幸福の科学が宗教法人であり、大川主宰がその代表役員であることは当事者間に争いがなく、また、(二)ないし(五)も、被控訴人講談社と株式会社日刊現代及び株式会社スコラとの関係を除けば概ね争いがない。そして、甲四〇ないし四二号証によれば、控訴人講談社と株式会社日刊現代及び株式会社スコラが密接な関係にあることが窺われ、甲六号証によれば幸福の科学が控訴人ら主張の如き目的を標榜していること、弁論の全趣旨によれば控訴人らが幸福の科学の正会員であることがそれぞれ認められる。
 請求原因2のうち、本件各記事が別紙一覧表のとおりの日に、同表掲記の各雑誌に掲載されたこと、当該記事に控訴人ら主張のとおりの見出しやタイトルが付されており、記事中に控訴人ら指摘のような記載があること、本件各記事の広告が電車の中吊り広告や新聞広告に掲載されたことはいずれも当事者間に争いがない。
 三 信仰の自由とそれに対する批判の自由ということについて
 1 信仰は本来人の内心に関わることであるから、何を信仰するか、しないかの自由、そもそも何も信仰しない自由をも含めて、その絶対的な保障が確保されなければならない。
 しかし、信仰は、通常は伝道(布教活動)を伴うものであるから、その意味で対外的な関わりを持つことになり、結局は内心の問題だけにとどまることはできないものである。したがって、この関係において当然他者からのリアクション(批判や攻撃を含む。)が予想されるのであり、この点において思想良心の自由とはいささか趣を異にする面があるものといわなければならない。宗教批判の自由もまた保障されなければならない所以である。
 2 とはいえ、信仰の自由が本来的には内心の自由に属することがらであることに鑑みれば、宗教批判はそれに相応しい節度が望まれるし、また、それに対する反批判の自由を十分保障した上でなされる必要がある。特に、広範な社会的影響力を有するマスメディアが自らある特定の宗教を批判し、或いは批判者に紙(誌)面を提供することについては、その影響が広範かつ甚大であるだけにより慎重な配慮が必要である。
 もちろん、このようなことは、宗教(団体)をマスメディアの射程外に置くことを意味しない。例えば、〈1〉ある宗教(団体)の生成発展につき、これを注目すべき社会事象の一つと捉えて報道するということは当然ありうることである。また、〈2〉ある宗教(団体)の教義そのものが反社会的・反倫理的であるために、そのまま放置したのでは当該宗教団体の布教活動により信者という名の被害者が少なからず出現し、ひいては社会秩序が危うくされるおそれがある場合であるとか、〈3〉その布教活動その他の対外的活動が法に抵触し、又は社会的な非難に値する非違行為であると目される場合ないしはその明らかな兆しがあるというようなときには、当該宗教団体ないしはその活動を糾弾し、これに対する警鐘を打ち鳴らす必要があるのは当然であるし、むしろそれはマスメディアの社会的な責務でさえある。
 しかし、〈1〉の場合と〈2〉及び〈3〉の場合とでは明らかに報道の姿勢が異なって然るべきものというべく、〈2〉及び〈3〉の場合は批判的な立場を明確にし、いわば批判的キャンペーンを張るということになるのに対し、〈1〉の場合には、メディアが堅持すべき一定の批判的視点を失ってはならないのは当然のことであるにしても、基本的にはできる限り客観的に報道すべきものであり、場合によっては(報道内容の批判的色彩が強ければ強いほど)当該宗教団体の側の反論の機会を保障するなどの配慮が必要であるものといわなければならない。
 四 1 以上のような観点から、本件各記事について検討するに、幸福の科学の教義が反社会的・反倫理的であるとか(前記〈2〉の場合)、その活動が違法・不当である(前記〈3〉の場合)ということを窺わせるに足りる証拠はない。
 本件各記事の場合、著しい成長を遂げる幸福の科学に注目し、その教義と教祖である大川主宰を現代という時代背景のもとで検証することによって、「幸福の科学現象」(甲一〇七号証)などとも呼ばれるその急速な成長の原因を究明するところに主眼があったものであり、基本的には前記〈1〉に該当する場合であったものと考えられる。もっとも、弁論の全趣旨によれば、平成三年九月二日頃から幸福の科学の会員らの被控訴人講談社に対する激しい抗議行動(電話やファックス攻勢、抗議デモ、フライデー廃刊署名運動その他)が行われたこと、その後、本件訴訟と同種の訴訟が各地で提起されたことが認められるところ、その後の本件各記事(特に、フライデー及び週刊現代の本件記事17及び18以降のそれ)はまさに対立的な当者者としてのそれになってしまった感があるが、右抗議行動等を境に被控訴人講談社側と幸福の科学との間に対立的な図式が出来上がったこと自体は客観的な事実である上、これを機に被控訴人らの幸福の科学に対する認識が前記
〈3〉へと決定的に変化したということも十分推認されるところであり、また、右認識の変化に全く根拠がないともいえないから、これらの各記事についてはいささか前提を異にして考察しなければならない。
 2 右の前提のもとに、とりあえず本件記事16までの各記事を概観するに、本件記事8、12及び16を除いた各記事は、本件記事1がスコラに、本件記事5ないし7がいずれも日刊ゲンダイに掲載された以外は全てフライデー及び週刊現代に掲載されたものであるところ、これらは、総じて、見出しやタイトルがまことに派手で仰々しい割りには、内容は空疎であり、摘示されている事実もいかにも粗雑なものや、根拠が薄弱なものが多いとの印象ないし読後感を払拭できない(例えば、本件記事4中の現金搬入記事及び広島講演記事などはその典型である。)。加えて、本件訴訟において控訴人らが具体的に指摘する点については、控訴人らから個別に詳細な反論を受け、あるいは、本件記事13中のノイローゼ記事に対する甲四四、四五、一七六、一七七号証のような反証に会って、その真実性がますます揺らいでいるとの感を強くさせられるものが多い。
 また、その論調も、当初の多分にやゆ的な調子から攻撃的ともいうべき強い批判的な調子へと急速に変化していることが窺えるのであり、しかも、そのようなものが反復継続されているところが特徴的である。
 3 これに対し、月刊現代に掲載された本件記事8、12及び16は、前記週刊誌掲載分などとはかなり趣を異にしている。もちろん、これら(ただし、本件記事12は対談という特殊な形式のものであるからひとまず措く。)も幸福の科学と大川主宰に対する批判色の強いものではあるが、内容的にはそれなりにみるべきものがあるということができる。ただ、本件記事16についていえば、学者の公正な論評というにしてはいささか性急で独断的とも思える幸福の科学と大川主宰に対する否定的評価が散見され、その表現もいかにもセンセーショナルで挑発的でさえある。しかも、同記事は、被控訴人島田の「日本女子大学助教授」「宗教学者」という肩書とそれが発表された時期及び内容とが相俟って、客観的にはそれまでの一連の本件記事を理論的に補強し正当化する役割りを果たしたであろうことが容易に推認される。
 4 以上によれば、本件記事16までの一連の記事に限定してみても、その多く(特に、フライデー及び週刊現代掲載分)に幸福の科学と大川主宰に対する否定的なニュアンスのセンセーショナルな見出しやタイトルが付され、これが大々的に宣伝広告されることにより一人歩きしている傾向が窺えるほか、内容的にも重要な事実の指摘において根拠がいかにも薄弱であったり、意見や批評(評価)に関する部分も悪意のある断定的なものがみられる上、このような一方的な批判ないし攻撃が繰り返されるなど、前記〈1〉の場合における節度のある批判という原則を逸脱している疑いが強い。
 したがって、これらの記事により幸福の科学と大川主宰の名誉が毀損されたと解する余地は十分あるものと考えられる。
 五 しかしながら、本件訴訟は、幸福の科学や大川主宰ではなく、幸福の科学の正会員である控訴人ら自身が損害を被ったとして損害賠償を請求するものであり、そこに本件訴訟の著しい特色がある。そこで、以下、この点について検討する。
 1 本件記事中には、「(幸福の科学には)たいして悩みもなく本を読む暇のある人が入っているようです」(本件記事3)、「精神的なよりどころのない若者や、宗教遍歴に疲れた人たちがコロッといかれる」(本件記事6)、「幸福の科学の会員たちは日本だけの繁栄を望んでいる」(本件記事16)、「大川主宰の指示うけた信徒たちが暴走」(本件記事17)、「景山民夫氏、小川知子さん、「幸福の科学」の信徒たち、あんたたちはどうして「嘘」ばっかりつくのか」(本件記事19)、「9月2日から様々な業務妨害をした会員たち」(本件記事20)などのように、特定の会員を名指ししたり或いは不特定の会員について論及したものもあるが、本件記事全体を通してみれば、これらはあくまで断片的・副次的なものにすぎず、本件各記事が直接には専ら幸福の科学と大川主宰に向けられたものであることは明らかである。
 2 したがって、本件各記事により名誉を毀損された可能性があるのはあくまで幸福の科学と大川主宰であって(前記四)、控訴人ら自身ではないから、控訴人らが控訴人ら自身の名誉権の侵害を主張するのは当たらない。
 もちろん、幸福の科学の教えに帰依し、大川主宰を信仰の対象とする控訴人らにとって、本件各記事がいたく不愉快なものであり、強い憤りをおぼえるものであったろうこと、本件各記事が世間に広められることにより、幸福の科学の正会員であることを標榜している控訴人らと周辺の人々との人間関係には少なからぬ否定的な影響が様々に生じ、それがひいては控訴人らの伝道活動にも多大の障害となったであろうこと、これらにより控訴人らが少なからぬ精神的苦痛を受けたであろうことなどは十分窺い知ることができる(甲一三八ないし一六四号証、控訴人本人花田哲の尋問の結果及び弁論の全趣旨)。
 しかし、これは、本件各記事により幸福の科学及び大川主宰に対する評価が貶められたことにより、幸福の科学の正会員である控訴人らもまた間接的、反射的に前記のような精神的苦痛を受けたというにほかならず、そうであるが故に、基本的には幸福の科学及び大川主宰の名誉が回復されるならば、控訴人らの精神的苦痛もまた結局は癒されるという関係にあるものということができる。この点につき、控訴人らは「宗教上の人格権」を主張し、或いは、控訴人らのような信仰者にとって信仰の中枢である御本尊が傷つけられるのは自分自身が傷つけられる以上の事態であるなどとも主張するけれども、この点をもってしても前記の基本的な関係が左右されるものではない。
 さらに、本件各記事に関与した被控訴人らの側からみても、その射程内にあるのはあくまで幸福の科学と大川主宰であって、その背後にある不特定多数の幸福の科学の正会員である控訴人らまで視野に入れたものでなかったことは明白である。
 3 そうすると、本件各記事が直ちに控訴人らに対する不法行為を構成するとは断じ難く、したがってまた、控訴人らが受けた精神的苦痛をもって本件各記事による損害と認めることはできないものというほかはない。
 六 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの本訴請求(控訴人Bら八名の主張する財産的損害についてのそれを含む。)はいずれも理由がないことに帰するから、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。
 よって、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 鍋山健 裁判官 西理 裁判官 和田康則)

 
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